目玉が飛び出すほどに驚くと言うのは、こういうことを言うのだと思う。あんぐりと開きかけた口を必死に手で押さえた。その間から零れた言葉は自分でも笑えるほど裏返っていた。

「ギル、ベルト?」
「おーうラナ!」
「おや、二人は知り合いか。」

 フリードリヒさまが笑みを浮かべながらそう仰った。ギルベルトは少し嬉しそうに返事をしつつ頭を掻いていた。どういうことなの。
 この度、私は出世し、唯一の女近衛兵として就任した。今まで近衛兵をしていた人が病気を患ってしまい一人分の枠が空いたから急遽新たに近衛兵を一人立てることになった、それに私が選ばれたのだ。出世の理由はこれまでの戦歴であることに他ならない。今までは女が戦場に立つことは良い目で見られてこなかったが、これで少しはあの突き刺すような視線からはおさらば出来るだろう。そう出世を喜んでいた途端にこれである。まさかの、飲み友が軍人、しかも騎士団員(近衛兵)だったとは。ええええ、思いっきり失礼なことをしていたじゃないですか私! そう心の中で叫ぶが、表情に焦りがありありと出ていたのかギルベルトは何時ものようにケセセとあの笑い声を零した。

「プロイセン、我が国よ。」
「なんだよフリッツ親父。」
「嬉しいのは分かるが、そんなに頬を緩ませるんじゃない。」
「えっ!?」

 俺そんなにニヤニヤしてたか!? とフリードリヒさまに詰め寄るギルベルトはまるでフリードリヒさまと親子のようであった。あれ、私今日新人として謁見しにきただけなのにどうしてこんな親子みたいな微笑ましい光景をみているのだろうか。

「……。」

 あれ、少し待って。現実拒否をしかけていた私の意識を先程のセリフの違和感が引きもどした。先程、フリードリヒさまは、なんて。

「プロ、イセン……?」
「あ、そういや教えてなかったな!」
「プロイセン、それは軍事機密だからね?」

 フリードリヒさまはにこやかな笑みを浮かべたまま仰る。

「俺様はプロイセン。国の化身みたいなもんだ。
 まあ、何時もはギルベルト・バイルシュミットって名乗ってるけどな。」

 彼はそういった。何時も見せるあの子供のようなキラキラとした瞳ではなく、暖かさも冷たさも偉大さも感じさせるような緋色の眼で私を見ていた。
 ああ、これが我が祖国か。いつもなら、まさかと思うだろう。けれど今の私は自然とその事実を受け止めていた。
 ゆっくりとした動作で私は床に片足をついた。

「この度、新しく騎士団員へ就任致しましたラナ・リットと申します。フリードリヒさま、そして我が祖国、この命……あなた方の為に捧げる所存でございます。」

 顔をあげれば、そこにはそれぞれ違う笑みを浮かべる二人のお方がいた。漠然と、自分がとてつもない事を知ってしまったことを理解したのはその瞬間だった。
 この日、私は正式に騎士団へと就任した。
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