行きつけの寂れた居酒屋に行くと、毎回と言っていい程たまたま彼と会う。そして彼とは次第に喋ることが多くなっていった。おなじみのカウンター席、おなじみのビール、たわいない世間話。しれっとした物言いをするように見えて、意外にも愛嬌のある人物であると理解するのにそう時間はかからなかった。人は見かけによらないとは良くいったものだと、一人納得した。
 今は大きな戦がない。その所為か、仕事も訓練も毎日あるがこうして僅かな休みをとることも許されている。これが戦中だったら目まぐるしく忙しくなるのだろう。そう思うと憂鬱だけれど、戦場に赴き国の為に剣を振るうのは何とも気分がいいのだ。ああ、私は必要とされている。そう思えるから。

「YO! しけた顔なんかしてどうしたよ!」
「煩いです……ギルベルト。」

 酒に酔っている所為か、耳に彼の声が響くと脳がぐらりと揺れるようだった。「ごめんごめん」と軽い口調で言う彼には一向に謝罪の念が感じられない。ケセセと、独特の笑いを零した彼は隣にためらいもなく座る。同時に出されたジョッキを、こちんと合わせるのはもう恒例である。そんな彼の顔が強張った。無言でこちらに詰め寄って見て来るので私は思わず身を引いた。腰が痛い。

「お前、その腕。」
「……ああ、これですか。」

 包帯が巻かれた自身の腕、これは今日の訓練で負ったものだった。真剣に腕を斬りつけられたのでパックリと綺麗に肌が割れてしまったのだ。でもこれだけ綺麗に斬れてしまえば治るのも早いので幸いだ。骨折も綺麗にばっきりいってしまった方が治りが早い。

「今日の訓練で出来たものですよ、大丈夫です。国のために鍛えるのですから、このくらいの傷、どうってことありません。」

 正直な気持ちを笑って伝えると、彼は納得がいかないような、それでいて申し訳なさそうな顔をしてジョッキを煽っていた。私にはそれがどういう意味を示しているのかが分からない。何で貴方がそんな顔をするのですか、出てしまいそうになった言葉はビールと一緒に飲み込んだ。
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