ここはプロイセンと言う国の、小さな居酒屋。周りでは大柄な男たちがビールの入った小さな樽のジョッキを手にして飲んだくれている。浴びる様にビールを飲んでいる様子を見るかぎり民族性だなあと感じるのだ。ぐい、と自分もジョッキを煽る。喉を鳴らして一気に飲み干すと日頃の疲れもまた最高の引き立て役のように感じた。ビール美味しい。
 こうやって店のカウンターで一人酒を煽るのは、自分の時間を漫喫していると実感できるとても有意義な時間だと言える。だと言うのにこの姿を傍から見ると一般的には寂しい奴だと憐みの視線を向けられてしまうのだ。そんなことは一切ないと言うのに。これは虚勢を張っているわけではなく、ただただ本心から漏れた本音である。日頃から部隊の仲間が周りにいるので寂しいと思う事はないが、一人の時間が極端に少ないため私にとってはこの時間は丁度いい息抜きなのだ。そうだ、私は寂しい奴なんかじゃない! 少しばかりハイになっていることに気づきながらも今はそれを止めようとは思わなかった。
「もう一杯。」と店主にジョッキを差し出すと、店主は「ほどほどにね。」と軽く助言をしてなみなみと新たにビールをそのジョッキに注いでは差し出した。零れそうになるその液体をじゅる、と慌てて吸う。よかった、どうやら零れなかったようだ。適当に蒸かした芋をフォークで口元に運びつつ、酒を飲む。貴族たちや、軍人が飲むような品の良い物ではないが、自分の様な兵士が飲む分では問題ない。質より量とはよく言う。そんな事を頭の隅で考えていると、足音が近づいてきてることに気づいた。こんな一人の私に何か用でもあるわけでもないだろう、きっと別の客に用があるんだろう。うん、きっとそうだ。気にせず酒飲みを続行することにした。ぐい、ジョッキを煽る。

「おお、良い飲みっぷりじゃねーか。」
「はあ、どうも。」

 芋を食す。

「オッさん俺もビール!」

 酒臭い……?

「はいよ。」

 酒……ビール臭くないか……??
 異様にしたアルコール臭は、隣からで
 ……?

「せっかくだし、乾杯しよーぜ!」

 何時の間にか注がれていた新しいビールが、ジョッキを小さくこちんと合わせると、少しだけ飛び出した。

 なにがどうしてこうなった。
 そりゃ近づいてくる気配が自分の方へと来ているなと、分かっていてスルーしたのは私だけれど。でもまさかこんな女に声を掛けるなんてそうそう予想できることではない。あれかな、ビールの取り過ぎで幻覚でも見てるのだろうか私は。だとしたら禁酒しなければ。あはは。思考は現実を受け入れられそうにもなかった。
 何時の間にか隣の席について、乾杯までしてしまった男をちらを横目で見る。やっぱりその横顔さえ美しい美青年がいた。珍しい銀糸とルビーを思わせるその目のコントラストが酷く眩しいような感覚を覚えた。
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