リボン


 
 梨理の研究所というのは屋敷から少し離れている場所に存在している。人を寄せ付けないというよりは、人が寄り付かない。
 だからその扉が開くことは珍しかった。ましてや、顔を赤い包帯で覆われている少女がそこに立っているという現実に、どう反応していいのかわからなかった。

 「來夢、その赤い包帯はどうしたんだい?」
 「包帯じゃない」

 どこか拗ねたような口調で來夢が答える。梨理はその意味がわからなかったが、よく見るとそれには包帯のようなざらざらとした質感はなく、むしろつやつやとした手触りの良さそうな布で出来ていた。來夢はずるずると落ちてくるそれをくいっと直す。

 「あぁ、リボンだったのか。ごめんよ。あまりに君がぐるぐる巻きにされてたから……てっきりどこか怪我でもしたのかと」

 この言葉がフォローになったかどうかはわからない。暗に「その結び方は酷い」と言ってしまった気もするが、機嫌を悪くした様子もなく來夢が答える。

 「私に似合うからって、ディアがくれたの。でも彼女、結ぶのには慣れてなかったから」
 「いつもしてもらう側のお姫様だものね、ディアは。手伝ってあげれば良かったのに」
 「彼女の自尊心優先。結ぶところまでがきっとプレゼントだっただろうから」
 「君は見かけによらず大人だね」
 「……そんなことない」

 言葉とは裏腹に、軽く微笑んだ。こんな表情も出来るなら普段からすればいいのに、と梨理は思う。
 実際、來夢は他の同い年の子に比べたら大人びたほうだ。普通は結ぶ行為もプレゼント、だなんて考えないだろう。來夢より年上の杏ですら、その考えに至るかどうか怪しい。

 「で、用事は?薬なくなりそうだったっけ」
 「特に」
 「何しに来たのさ」
 「……見せびらかしに?」
 「なんで疑問系なんだい」
 「さぁ。気が向いたから来てみただけ。他に理由なんてないよ」
 「そう」
 「うん」

 それだけ言ったら満足したらしく、來夢は何事もなかったかのように頭に包帯のようなリボンを不格好に巻いたまま研究所を出て行った。
 反応に困っていたので、うまく流してくれて助かったと梨理は安堵した。どうも女の子のお洒落を褒める技術は身に付いていないので、次までにそういう分野も勉強しておこうかなぁ、なんて漠然と考えていた。




 2014.07.03

 梨理と來夢は、親と娘のような、特別な友達同士のような、うまく言葉に表しにくい関係で成り立ってるのです。


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