静寂


 
 物音のしない静かで暗い夜。それが渚にとって一番嫌いな時間帯だった。
 自分には何も無いって思い知らされるから。あるいは、有ったものが消えて無くなったという事実を突きつけられるのが怖いから。
 誰かみたいに物理的な何かを怖いと感じることはほとんどない。本当に怖いのは目に見えないもの。そしてそれに気付いた瞬間、世界が全て敵になるんじゃないかというくらいの衝動。


 毎晩兄と一緒の布団で並んで寝て、今日あった出来事を話していたらいつの間にか眠ってしまっていて、朝起きたら兄が笑いかけて起こしてくれる。
 自分だって朝は弱いくせに少しでも兄らしくしようとして、余裕なふりをする。渚はそれを知りながら兄に甘える。
 「おはよう」から始まって「おやすみ」で終わる毎日。
 それが当たり前のようでいて、実は自分の全てだったことに気付いたのはあまりにも遅すぎた。


 静かな夜にはいつまでも慣れることはなかった。
 慣れたとしたらそれはそれで悲しいものがあるが、結局どちらともつかない感情で今まで過ごしてきた。
 いつまでも僅かな希望を信じて、しかし叶うことの無いその希望を捨てきれずに惨めな思いをするくらいなら、いっそ楽しかった過去など掻き消してしまいたくなるときもある。それだけ独りの夜は辛かった。


 この無音で冷たい寂しさが、世界で一番怖かった。


 「嘘でもいいから誰か私を愛してください」




 2014.10.21

 葵と仲直りする前の渚。すごく弱い子なんです。


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