落とし物
「あれ、落とし物だ」
アズサの自室に向かう途中、屋敷の女子寮の廊下の目の前に落ちているのは可愛らしい巾着袋。フィアはそれを拾い上げた。
手のひらに収まるほどの大きさで、成る程、これなら落としてもなかなか気付かないだろう。今頃落とした持ち主は探しているかもしれない。見つけた以上、とりあえず持ち主を捜して届けなければいけないだろうという責任感がフィアに芽生えた。
「なんだろう……何が入ってるのかな」
そんな気持ちを知ってか知らずか、アズサは興味津々といった様子で横から覗き込む。と、同時にフィアからそれを横取りして何気ない仕草で開封しようとする。慌ててフィアがそれを阻止する。
「こら、アズサ!勝手に中身を開けない!」
「だって開かないと誰のだかわからないよ?」
「見られたら困るものが入っていたら持ち主が可哀想だろう」
もっともらしい理由を言ったところで、しかし手がかりがないこともまた事実である。ここはアズサの言う通り中身の確認をするべきかもしれない。プライバシー云々があるかもしれないが、無事に持ち主に届ける為には仕方ないことだってある。
「何やってんだ?」
と、そこに呼んでもいない姿が現れた。げ、とフィアの眉間に皺が寄る。
「あ!名探偵の蒼雷だ!」
「おう、名探偵の蒼雷だ」
「調子に乗るな変態」
まさにアズサの居るところに蒼雷あり。フィアは時々どうしてこうタイミングよく出てくるのか不思議に思う。盗聴器か発信器か、いやいや、そんなものを持っているはずがない……とは彼の性格上言い切れないが、そんなことはないと信じたい。
「蒼雷、これの匂いを嗅いで、これの持ち主を探して!」
「そんな犬みたいなこと……」
「あ、これ來夢のだ」
「って、わかるのかよ!」
思わず声を荒げてしまったことを反省するが後の祭りなフィア。持ち主が判明したことを喜ぶアズサ。それよりアズサに褒めてもらいたくてうずうずしている蒼雷。三者三様、思っていることは全く違うらしい。
「さすが蒼雷っ、頼りになる!困ってたから助かったよー!」
「いやぁ、だってオレはアズサの犬だし」
「ただのマイナンが何を言う」
「……って思うじゃん?」
「黙れ変態」
「よーし、來夢に返してこよっと!」
フィアと蒼雷の意味不明なやりとりを聞いていなかったのか、アズサは巾着袋を持って來夢の部屋へと小走りで立ち去っていった。
残されたフィアと蒼雷はしばらく突っ立っていたが、やがて溜め息一つ吐くといつもの何気ない日常を感じた。
「なんか……今日も平和だなぁ」
「だねぇ」
先程までは蒼雷のことを一発殴ってやろうかと思っていたが、嬉しそうに去っていくアズサの後ろ姿を見送っていると、もやもやとした不快感が一気に消え、肩の力が抜けていった。そんなフィアの言葉に蒼雷もなんとなく賛同してみる。
ホウエン地方は今日も平和だと改めて実感する。この平和がいつまでも続きますようにと願わずにはいられない。
2014.05.18
やっぱり私の中ではこの3人が最強で最高に大好きです。そういえばフィアって蒼雷のことを名前で呼ぶより変態って呼ぶ方が多いかもしれない。
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