この屋敷の当主は17歳の人間。
 そんな主とポケモン達との唯一の掟。
 それは、「絶対服従。」


 「だからさー、アズサが命令すればこんなことにはならないんだって。一度ガツンと言ってよ」
 「うーん……」

 荒れ果てた屋敷の庭の花壇を片付けながら、アズサとフィアが溜め息混じりに会話をしていた。
 事の発端は数時間前、魁斗と紅斗が鍛錬と称し、中庭で原型の姿に戻って散々と技を繰り広げたことにあった。
 フィアが騒ぎを聞きつけて駆けつけたときにはすでに水と炎が交じり合い、植物は燃えた残骸が水浸しになっているという、凄まじい状態であった。
 本当ならば当事者である二人に責任をとってもらうところだが、不器用と短気の彼らにはそのようなことをしたら逆効果だということは目に見えていた。こうなってしまったら後始末は責任者の仕事……ではあるが、彼らの責任者は相変わらず何処にいるのかわからない自由人なので、ひとまずフィアが代わりに出てくることになった。

 「私達はアズサの言うことには逆らえないんだから。逆らうヤツがいたら私がシメてやる!」
 「ありがとう、でもやっぱり強制命令するのはよくないって思う。本人達が自主的にやめるようにしなきゃ」
 「アズサは優しいんな。でも、そんなんだからみんな自由勝手すぎるんだぞ?というかある程度威厳を持たないとこの屋敷唯一の掟が消えるじゃないか」
 「はぁーい」

 フィアの話を右から左へと聞き流しながら、アズサは荒れた花壇の土を均している。
 そういえばこの前は樹木が何本か駄目になったっけ、と前回の悲惨さを思い返したら、今回の被害はかなり少なく済んだので、そこまで怒るに至らなかった。もちろん自分の感覚が麻痺している自覚はない。




 「ってね、こういうことがあったの」

 その夜、アズサは自室で昼間のことを蒼雷に相談していた。相談といっても解決策が欲しいわけではなく、ただ単に今日あった出来事のひとつとして聞いてほしいだけである。
 ソファに座りながら二人でゆっくりとお茶を飲み、一連の出来事を語り終えたときには蒼雷が僅かに怒り気味だった。いつも自分が悩んでいるときに一緒に悩んでくれるのは有り難いが、どちらかというと今日のは笑い話だよなぁと思っても、それを言い出す雰囲気ではなくなった気がした。そもそも屋敷の修理をするのは蒼雷の役目なのだから、この悲報は彼にとっては怒るべき対象なのである。

 「んじゃあオレから言っとこうか?アズサは優しすぎるんだよ」
 「同じことフィアに言われました……」

 アズサはさすがに少し反省したので俯く。

 「当たり前だ。第一、魁斗とか紅斗みたいなやつは言葉にしないと理解出来ないんだよ。男って大体そんなもんだって」
 「蒼雷は?蒼雷も言葉にしなきゃわかんない?」
 「オレはアズサのことなら何でも言うこと聞くけどな」
 「もし私がフィアとケンカしろー、って言ったらするの?」
 「アズサはそんなことを言う人じゃないだろ?まぁ……もっと最悪なことでもアズサが願えば叶えてやるぜ」

 意外なことを言われたような気がして、アズサは目を丸くした。
 最悪なことってなんだろう。歩いていたらいきなり柱にぶつかるとか?ご飯を床に落としてしまうとか?色々と考えてみたが、アズサの頭では最悪なことは思いつかなかった。

 「じゃあさ、……ちょっと離れてくれる?」

 蒼雷の顔を控えめに見ながら尋ねる。気がつけばしっかりとアズサの腰に手を回しながら、お互いの吐息がわかるほど近くに迫っていた。あともう少し力を加えられてしまったらソファに押し倒される絵になるだろう。今のアズサにとってはそれが"最悪"かもしれない。

 「それはいくら可愛い主の言うことでも聞けないな」
 「蒼雷の嘘つきー!」




 2014.04.22

 2008年の文章が出てきたので書き直し。書き直しする前はあらゆるものがひどかったです。みんな成長してくれて良かった。


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