熱中症
夏の暑さが厳しくなってきてからというものの、熱中症にかかる人たちが増えてきた。水分を補給していても、大概は太陽の熱気にやられる。
そうすると僕が忙しくなるんだよね。薬の調合が出来るってだけで何か薬を作ってくれって言われる。……一番の対策は体の熱を下げることだから薬は関係ないっていうのに。
「梨理っ、杏が倒れちゃった!」
「はいはい、まず涼しいところに避難させてね。紫黎、ナイフは危ないからしまいなさい」
「……梨理、來夢が倒れた」
「じゃあせめて帽子とアームウォーマーは外そうか。それならエナル、男の君でも出来るだろう?」
「梨理!魁斗が倒れた!やばい!」
「水不足だろうから海に投げておきな」
なんていうか……僕のことを万能な医者だなんて勘違いしていないかな、みんな。そりゃあ医学的なことはこの馬鹿……みんなよりはあると思うけど。
今面白い薬を開発中だからあまり邪魔して欲しくないんだよね。毒の粉と痺れ粉、これを1:3で混ぜたところに、
「梨理、アズサが熱中症で倒れた!でも手ぇ握ってくれたままなんだけどこれってやっぱり愛の力かな!」
「……蒼雷、君がちょっと頭を冷やしたほうがいいよ」
蒼雷は頭が悪いほうではない。むしろ何でもこなしてしまう天才だが、今だけは言おう、馬鹿であると。
好きな人が倒れて意識のないところに、どうしたら愛の力だのとふざけた思考が出来るんだろうか。頭が良すぎて考えていることがわからない。……わかりたくもないけどね。
「とりあえずさ、みんな熱中症の対処法くらい把握していようよ。日陰で休ませて、熱を下げるくらいは常識だからね?」
というか、それ以前に熱中症対策しようよ、みんな……。
調合中だった薬を一旦置いて、ホウエン地方の夏はまだまだ長い、そんな現実にうんざりした梨理であった。
2011.08.13
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