すれ違い


 
 「石榴、ちょっといいかな……」

 言われて石榴は振り返る。名前を呼ばれたので思わず反射的に振り返ったが、相手を確認すると一瞬で顔を顰める。
 会いたくない、と言えばそうなのだが、最近は少し違う感情の理由で彼女を避けている。同じ旅をしているメンバー同士なのだから、会いたくないだなんて言っていられないのだが、それでも必要以上には関わりたくないと思っている。
 だからわざとらしく興味がないフリをするのもいつものことで。


 「んあ?……なんだ、彗かよ。目障りだから話かけんなっつーの。」
 「あのさ、最近どこかへ行ってるみたいだけど、」
 「んな事お前には関係ねーだろ」


 石榴は言葉の全部を待たなかった。彗はこう言われることはわかっていた。
 昔は隣にあった背中。今も近くにあるはずなのにとても遠くに感じる。
 目つきが悪いのが嫌だと言って小さく笑っていた彼の目。それはこんなに冷たく鋭いものだったか。
 最近あまりまともに見かけなかったからか、少し痩せているようにも見えた。
 変わってしまった友人を、しかし干渉することも叶わず、ただ見ているだけしかなかった。
 彗は石榴のことをよく知っていた。しかし、それは過去の話。最近の彼についてはどうもよくわからない。何を考えているのか、何を思っているのか、何がしたいのか……。
 そんな不安を抱えながら、それでもその気持ちを悟られないように必死に声に変える。


 「あんまり危ないことはしないでね」
 「いい加減うぜーよ、消えろ」


 強く睨まれた視線を向けられ、彗はもう声が出なかった。そのまま立ち去る彼を追うことも、かといってその場を離れることも出来なかった。
 楽しかった時。ずっと友達だって約束した時。彼は忘れてしまっただろうか。
 寂しいと悲しいが重なった複雑な感情を押し殺した眼差しを、遠くの彼に向けた。
 



 「あらあら、いいの?彼女泣いてたわよ?」
 「なんだよ、見てたのかよ……いーだろ、別に。ってか覗き見とか趣味わりーぜ」
 「うふふ。要らないと言ったものを切り捨てたあとに残ったものは何かしらね」
 「……今日はもういいや、帰る。」
 「あなたの帰る場所はあっちでしょ?都合の良い男ね。惚れちゃいそう」


 終始黙秘を続けていたもうひとつの影に、彗は最後まで気付かなかった。




 2013.04.10

 ざっくんと彗の、ちょっとすれ違ってしまったおはなし。


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