予言
「渚、ちょっと面白い話を聞いてくれぬか?」
「えぇ。帝様の頼みならいつでもお話を伺いますが」
「やはりそなたは賢い子である!妾は嬉しいぞ」
急に帝に呼び出されるとは何事かと思えば、話し相手になってくれとのこと。彼女の部屋にはそのような事以外で訪れたことはないので、予想出来たといえば出来ていた。ただ、もう少し期待を裏切ってくれてもいいのではないかとも思う。
渚は今、ホウエン地方にいた。シンオウに住んでいる彼としてはこの土地に来ることはとても珍しいことで、前回ここに来たときはいつだったか……と思い出そうとしたがすぐに止めた。あるときは倒れた煉の介抱をしに、またあるときは蒼雷に顔が見たいと呼ばれ赴いたらそこに葵もいたなど、彼にとって良い思い出があまりにも少ない。
そして今日、この状況である。本心では帝に関わりたくない一心であったが、そんな我が儘を言えるほど渚も子供ではない。帝の機嫌を損ねては大変だということは出会ってすぐに学んでいる。心中を悟られまいと、極めて冷静に傾聴する。
「なにやらカントー地方のとある一角に、どうにも喰えぬ輩がいるようでの。ここからだと遠いかもしれぬが、様子を見に行ってはくれないか?」
「そんな長距離であれば、帝様が行けば……って、そうでしたね」
「うむ。妾は自分から動くのが嫌いじゃ!」
ぱたぱたと扇子を扇ぎながら清々しい笑顔を向けられるので、返す言葉が見当たらない。
裏がありそうな案件だな、と考え込んだが、詮索する相手が悪かった。相手は何百年も生きる"魔女"のような存在。真意を見せてくれる隙など存在しない。
仕方ない、とひとつ大きなため息をついて、渚は早速準備をするために踵を返す。
「渚、ひとつだけ助言をしよう」
カントーへ行くならきっと長旅になるだろう。煉に留守を頼んで、それから椛にも煉を見張ってもらって、あぁそれと雷智さんにも一応連絡を……と思考を巡らせていたところに声がかかった。
「知識はただの道具じゃ。それを利用してこそ、真価が解るであろう」
「……何かの予言でしょうか?未熟な私にはその言葉を理解するのが難しいようなのですが」
「それを確かめる為に行くのではないのか?」
「そうでしたね。失礼しました」
この日を境に、彼の人生が大きく堕落に傾いた。
帝はどこまでこの未来を見ていたのだろうか。
2013.11.21
完全に出しそびれてもう遠い過去になったおはなし。
この後長い時間を経て双子が仲直りします。
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