ワンクッション


  
 とある日、とある地方、とある場所。そして、とあるバトルの決着がついた頃。
 バトルを仕掛けたのはゴウカザルの煉。好戦的で細かい事を考えずに体を動かす、血の気が多い性格をしている。
 そしてそのバトルを受けたのはマイナンの蒼雷。煉にとって、蒼雷は色々な意味を含めて障壁たる人物である。本当は何者なのかと聞きたくなるほど完璧な頭脳と運動能力の持ち主。ちなみにポケモンバトルをはじめとしたあらゆる勝負事に、まだ一度も勝ったことは無い。

 「先輩マジで手加減なさすぎですよ……」
 「だって負けるの嫌だもん」

 疲れきった表情の煉に向かって、蒼雷は爽やかな笑顔を向ける。先程まで小さい体躯で素早く動いていた意地の悪そうなマイナンが、今は地面に倒れたままの自分を人間の姿で見下ろしている。そういう自分は体力を消耗しすぎて、とてもじゃないけれど人間の姿になる余裕はない。頭の炎の揺れもいつもより弱い。

 「せめて『地震』を使う瞬間さえあれば、ちょっとの勝機はあったと思うんですけどね」
 「それが嫌だから先に『電磁波』で麻痺させたんだよ?」
 「しかもそんなに『雷』って命中します……?今の命中率100%でしたよ、100%!うぇぇ、まだ手足が痺れてる……」
 「運が味方してくれたみたいだね、さすがオレ」
 「……先輩、ずるいです」
 「策士と言ってくれたほうが嬉しいかな」


 未だに大の字になって立ち上がることすら不可能な煉は、口だけで精一杯の負け惜しみを表す。が、それすらも綺麗に躱されてしまう。いつものことであるが、今日も良いところを先輩に見せられなかった。
 「いつか先輩を超えてみせる!」と初めて宣言したのはいつだっただろうか。あれから不定期に、時には不意に勝負を挑んでみたが、一回も勝てないまま相当な年月が経ってしまった。

 「無理、やっぱり勝てる気がしないです!」
 「何言ってんだよ、そんなことじゃあフィアにも勝てないんじゃないの?」
 「うっ……ただいま15連敗中です……」
 「勝ったことは?」
 「もちろんないです」
 「だってフィアはオレより強いもんねー」

 蒼雷はどちらかと言えば補助技を使ったり戦術的撤退をしたりと頭脳戦な部分が多いため、考える事が苦手な自分はもしかしたら一生勝てないのではないのだろうかと思ったこともあり、正々堂々の格闘勝負を好むフィアとも勝負をしたことが何度かあった。もちろん先に述べたように彼女にも勝ったことはない。ホウエンの双璧はそこまで甘くはなかった。

 「もし、フィアさんに一度でも勝てたら、オレ、」
 「え?何、告白でもするの?」
 「!?……は、はい……そのつもりで……」

 言いたかったことを先に言われてしまい、余計に恥ずかしくなる。思わず空気が読めないのと敢えて読まないのは別物なんだな、なんてことを先輩相手に考えてしまう。

 「つまりあと5年は無理か……」
 「先輩、それどういう意味っすか」
 「何でもないよ」

 なんだか馬鹿にされたような気がしたが、疲れていることもあってうまく詮索出来ないので真意を諦める。
 フィアは強い奴が好きだと言っているのを聞いた事があった。その時から自分は強くならなければいけないと思っていたし、その為には目の前の先輩も倒して強さを証明しなければとも思っていた。「いつか先輩を超えてみせる!」と言ったのもその為だ。
 なのにあれから自分は変わっただろうか。強くなっただろうか。

 「……オレ、やっぱり弱いのかなぁ」

 思わず弱音を吐いてしまった。自分らしくないと自分でも思う。
 それでも蒼雷は肯定も否定もせずに、ただ横になっている煉の頭を優しく撫でた。

 「まぁ頑張ってよ、フィアちゃん手強いからさ」
 「はい。告白のために頑張ります!」

 もうすぐ出会ってから8年。それでも、この気持ちはあの日のまま変わらない。
 どこまでも続く空を見上げながら、煉はまた気合いを入れ直すのだった。




 2014.05.17

 もう煉フィア両想いまで秒読みなのですが、短編が完成するまでにリアル年月であと5年くりかかりそうで怖いです。煉ごめんね。





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