ゲンティアナ・スカブラ


「亮さん、俺と別れてください。」
それは、あまりにも突然すぎる別れの言葉だった。

「もう無理なんです。…亮さんのとなりにいるのは。…亮さんの幸せは必ず見つかりますよ。」
この言葉で俺達の関係は切れた。
いままでの幸せが嘘にしか感じられない。
「さようなら、亮さん」
そう言われて1人取り残された俺には、ただ虚無感しかなかった。
俺のためを思ったのだろうか置いていかれた傘は強く降りしきる雨のせいで悲しいほどに濡れていて。
(雨…冷たい)
俺はなにか間違えちゃったのかな。
使える時間はお前と居たよ。
練習だって、休みだって。
でもそれは、俺がただ甘えてただけなのかな。
お前には、それが苦痛だったのかな。
そばにいられるのは嫌だった?

本当に、俺のこと好きだったの?

『ずっとそばにいてくださいね…亮さん』

お前がそう言ったんじゃん。
ねえ倉持、なんで約束守んないの?
さっきから聞きたいことが溢れてとまらないよ。
でも答えなんて返ってこない。
けどただひとつ、わかること。
おいてけぼりの俺にわかること。
俺は…俺は、倉持が隣にいないだけで、冗談を言い合わないだけで、笑いあえないだけで、こんなにお前の手に触れたくて、握りたくて。
きみに抱きつきたくて。
きつく、抱き締めてほしくて、
こんなに弱虫な俺になってしまって。
やっぱり、涙が出るくらいにきみが好きなんだって、笑いあってた昨日みたいに分かってしまうんだ。

『亮さんの夢は、俺が叶えますよ』

そういったのは倉持だよ。
倉持とずっと一緒に居たいという俺の夢はもう叶わなくて。
残ったのはこの、愛しい気持ちだけ。
それすら、もう認めてもらえないなんて。

だから、せめて今は雨に身を任せて思い切り、
きみの側で泣けなかったぶん、





きみを想って泣こう。



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