ライトアップ/今鳴 | ナノ

ペダル/今鳴



「もう終わりか?」

鼻で笑って挑発する今泉を鳴子は無視できるはずもなかった。部活動としての練習は終わったのに、彼らはその後居残って自転車をこぎ続けたのだ。
ようやく見切りをつけて部室に戻った頃には、既に皆帰ってしまったらしく、部室は空になっていた。

「つかれたあああ」

鳴子はベンチに座ってさらに上半身もその上に倒して寝転がった。元の練習量でさえ半端ではなかったのに、加えて自主練してしまうとは、キャパを超えてしまったのではないかと、鳴子は安易に今泉の挑発に乗ってしまったことを後悔する。

「もうへばってんのかよ…」
「うっさいわ…お前もへとへとやんけ」

かぶせた腕の隙間から目を流して見ると、今泉がタオルを被り俯いて座っているのが視界に映った。お互い様というわけである。

「付き合わんかったらよかった…」
「まさかこんな遅くまで付き合わされるとは…」

二人が同時に吐いた悪態は、ほぼ同じ意味を孕んでいた。それに気がついて二人は気まずそうに口を噤む。ただ、流れた沈黙はほんの束の間だった。

「ふ…ははっ」

沈黙を破って響いたのは鳴子の笑い声である。今泉は勿論何がおかしいのかわからなくて、鳴子を見た。喧嘩ばかりしているので、お互い笑顔を見ることは少ないし、ましてや二人で話しているときに純粋に笑うなんてことはありえなかった。だから、よくある馬鹿にしたような笑いではなく、素直に笑っているのを見ただけで新鮮味を感じたのだ。それに、不思議と悪い気はしなかった。

「ここまで同じこと考えてるとかおもろすぎるやろ」

確かに、今泉は寡黙で鳴子は饒舌と、正反対のタイプだと思われがちだが、根本的な思考は似ているのかもしれない。その証拠に示し合わせてもないのに、先程のように同時に同じような発言をすることが頻繁にある。

「降参やなー…。実はお前とおんの結構楽しいかもしれんわ」

勢いをつけて上半身を起こして、鳴子は少し照れたふうに今泉に笑いかけた。
先程の比ではない。自らに向けられた笑顔に対して、今泉は新鮮どころの騒ぎではなく、それは不意打ちだと思った。驚いた心臓が震えて暫く鳴子から目を離すことができないでいる。
そんなふうにただまっすぐ見てくるだけで、何も返答をしない今泉を不審に思い、鳴子は首を傾げた。

「スカシ?」
「悪い、帰る」

がたん、とおもむろに荷物を取って、今泉は鳴子の前を横切った。足早に部室から出てドアを閉める。何かとんでもないことをしでかしてしまったみたいで、どんどん心拍数は上がっていく。冷たい風に撫でられても正気に戻れそうにはなかった。







111003







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