つつみ | ナノ
比較的寝るのが早い僕は、その頃にはもうベッドの中で眠りについていた。けれど、呼鈴をピンポンピンポン…と連打される音と、玄関のドアをドンドン叩く音によって、目覚めさせられることになる。
こんな時間に誰だよ、という悪態を吐きながらも、ドアを叩く音が若干怖くもあった。しかし、その不安はすぐに吹き飛ぶことになるのだが。

「シンジくーん!いるんでしょ?あけてよー」

ドアの向こうから聞こえる気の抜けたような声は、間違いない…渚だ。普段から非常識な奴ではあるが、夜中にこんなに喚きたてるほどだっただろうか。これ以上、近所に迷惑をかけるわけにはいかないと、まだ覚めきっていない頭で考えて、ドアを開けてやった。

「あー、やっと開けてくれたー!」
「もうお前うるさいから」
「ひどっ、せっかく来たのにー」

ぶー、と口を尖らせて言う渚。せっかくってなんだよ、僕は頼んでもないぞ。

「で、何しに来たの?」
「何しにって、酷いよシンジくん!」
「は?」

まるで僕が呼んだというような口ぶりだ。そんな覚えはないが、回らない頭で記憶を探してみる。確かに今日こいつと会ったけれど、明日の誕生日のことを話しただけだ。夜中に家に来いと言った覚えはない。

「僕今日誕生日じゃん!約束したでしょー?」
「え、明日だ…」

いや、ちょっと待てよ。そばに置いてある時計を見たら、0時ちょうど。確かに渚の誕生日は今日だった。
確かに1日一緒にいてやると約束したけれど、まさか日付が変わってすぐにとは思わないだろ。しかも、わざわざ自分から祝われに来るだなんて、なんて図々しい奴だ。いや、確かにこいつならやりかねないけど。
本来なら、僕に祝ってほしいと顔に出ている渚に、何かケーキの1つでも用意してあげるべきなんだろう。けれど、どうせ遊びに行くんだろうし、その時になにか奢ってやればいいかと思っていたから、何も用意をしていなかった。しかも起こされたせいですごく眠い。だから今は、せめてこの言葉だけでも。

「ねえシンジくんー?聞いてるー?」
「…渚、」
「ん?」
「誕生日、おめでと」

そう言うと、渚は嬉しそうだけど、照れたように笑った。

「…って言ってあげることしか出来ないけど」
「ううん、シンジくんの家に来てよかったよ」
「なんで?」
「だって、シンジくんにおめでとうって言ってもらえたから!」

にこにこしてそんなこと言うから、渚の誕生日なのに、僕が嬉しくなってしまった。人に喜んでもらうってことは、気持ちのいいことだけど、渚の場合だとちょっと違うと思う。なんていうかもっと大きいような、嬉しいのにちょっと痛いような。

「あとね、1番初めがシンジくんでよかった」
「へ?」
「だってシンジくんが好きだから」

一瞬頭がショートしたみたいだった。冷静になれと自分で自分を落ち着かせて、渚は今僕が思った意味で言ったんじゃないと言い聞かせた。けれど渚は、さっきとはうって変わって、めったにない真面目な顔をしているし。ああもう、落ち着いてしまえば、顔が赤くなっているのも、うるさい心臓の音もわかってしまった。

「僕も…」

でも渚には、これがちょうどいい誕生日プレゼントかもしれない。





090913








「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -