「ごめん渚」
「え、どうしたのシンジくん」
シンジくんが僕に謝ったことなんて今までにあっただろうか。しかも僕に対しては、いつも感情を表に出さないのに、今のシンジくんは申し訳なさそうに眉が下がっていて、おまけに上目遣いときた。目がうるんで見えるのは、僕の目にフィルターがかかっているからかもしれないけれど。
「…渚って、明日誕生日だろ?」
「え?」
カレンダーを見て、土曜日だから…と確認すると、今日が12日だったことに気付いた。
「あ、ほんとだ」
「なに自分の誕生日忘れてんだよ」
シンジくんはそう言ったけれど、自分の誕生日を忘れていたわけじゃなくて、単に日付の感覚がなかったのだ。そこまで僕はばかじゃない。
「で、それで?」
「それでって…」
シンジくんは半ば呆れたようにため息をついて僕を見た。今日は僕まだ何もしてないよ!
「だから、誕生日プレゼント、買おうと思ったんだけど、渚の好きなもの思いつかなくて…」
シンジくんの表情がだんだん曇る。
「結局用意できなかったんだ」
シンジくんは、ごめん、とまた謝った。でも僕にとっては、シンジくんが誕生日を覚えてくれていたことだけでも、十分すぎるのに。だから、そんな顔しないでよ。
「そんなの気持ちだけで十分だよ」
「ううん、何かさ、欲しいものもわからないなんて、僕、渚のことを何も知らなかったんだなってさ」
寂しそうに、自分を責めるようにシンジくんは言う。ちがう、それはちがうよ。
「シンジくん、」
「なに?」
「僕は今、欲しいものがないから、シンジくんが僕の欲しいものがわからないっていうのは正解だよ」
「え」
と言っても、お金で買えるもので欲しいものはないってことだけれど。でもシンジくんはそういうとこ鈍感だから、きっと気付いてくれない。
「だから、やっぱりシンジくんほど僕のことを知ってくれてる人はいないよ!」
そう言うと、シンジくんは少し顔を赤くして、僕から目をそらした。素直じゃないなあ。そこがかわいいんだけれど。
「でも…それじゃあ僕の気が収まらないから、何かしたい」
僕と目を合わさずに口を尖らせて呟く彼が愛しい。シンジくんが欲しいって言えたらどんなに楽かな。でも怖いから。
「じゃあさ、シンジくんの時間をちょうだい!」
「時間?」
唖然とするシンジくん。多分意味がわかってないんだろう。
「そ、明日1日の。どっか遊びにいこ!」
「え、そんなのでいいの?」
「もちろん!」
最高のプレゼントだよ。大好きな人の時間をもらって、一日中一緒にいられるなんて!
090912