笑みか幸せか恋心か/円風 | ナノ



「よし、そろそろ終わるかー。」

そう言って、円堂はキャッチしたボールを片手に持ち替え、小脇に抱えた。鉄塔広場の縁を見やれば、夕日とその周りの空が赤く染まり始めていた。

「そっか、もうこんな時間なんだ…。」
「風丸、サッカー楽しくて時間忘れてた?」
「かもな」

とは言ったものの、実は円堂と一緒にいること自体が原因なのは解っている。多分サッカーでなくても、例えばただ話していたり隣に座っているだけでも、楽しくて幸せで、円堂と空間を共有していることだけで時間なんて一瞬で過ぎ去ってしまうのだ。もちろん本人にはそんなこと言えるはずがない。

「…やっぱ物足りないよ」

歩き出した片足を地面に押し付けて、円堂は振り向いた。しまった、と手のひらで口を押さえたけれど勿論意味はない。ひたりと心に滲みた虚無感が俺の口を滑らせたのだ。ぱちぱちと大きく瞬きしながら俺を見る円堂。頬に熱が集まってくるのがわかる。

「でも暗いとボール見えないぞ?」

あ、円堂は俺がサッカーし足りないと、そう捉えたのか。真意を知られなかったことは喜ぶべきはずなのに、少し落胆している自分がいることも否めない。それに乗じて円堂ともう少し一緒に居られるかも、と期待していたから。
けれど、物事を真っ直ぐに捉えるところが円堂らしいのかもしれない。そう考えたら取り乱した自分がおかしく思えて笑ってしまった。

「そうだな、帰ろう」
「え、まだいいだろ?」
「え?」
「ん?」

途切れた会話の隙間を風の音が通っていった。未だ思考がついていっていない。サッカーは終わったけれど円堂は俺を引き止めた。それってつまり――

「ま、俺んち寄ってけって。な?」
「ああ!」

随分遠回りした気はするけれど、ようやく歯車は噛み合ったらしい。ほら、と手を差し出されてそれに触れた瞬間、何かがこぼれた気がした。







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テーマ「人外ファンタジー」
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