「不動も来いよ!」
「わりぃなーそういう気分じゃねえんだわ」
「そっか、じゃあまた後でなー」
円堂を中心として、ほとんどのメンバーはイタリアエリアにある店の本格ジェラートを食べに行くとか言って行ってしまった。居残り組は俺と飛鷹くらいじゃなかろうか。と思ったけれどどこにも見当たらないので、奴でさえもどうやら付いて行ったらしい。まあ、どうでもいいや。宿舎に戻ろうと足を踏み出した途端、背後に人の気配を感じて振り返った。
「あ゛ー鬼道ちゃんかよ」
「お前なぁ、人付き合いくらいちゃんとしろ」
「うっせ。鬼道ちゃんだって行かなかったんじゃん」
「それはお前が…」
「んだよ」
「…まあいい」
お前は親か、と漏らしそうになる口を噤んだ。そういえば最近、やたらと鬼道は俺に構ってくるような気がする。過保護というか…ああもうやっぱり親じゃねーか。
「なあ、俺に構って楽しいかー?」
わざとバカにしたニュアンスを込めて問いかけたのに、鬼道は「そうだな…」と言ったっきり考えこんでしまった。何バカ正直に考えてんだよ、とまたしても突っ込みたくなったがまた口を噤んだ。いや、今回は自分の意思によってではなく、口にできなかった。ゴーグルの奥の真っ赤な瞳が静かに揺れていて、深く深く思慮しているらひい。なんとなく、それを邪魔する気にはなれなかったのだ。
「楽しくは、ないな」
「なんだそれ…」
散々悩んだ結果、やはり楽しくはないのか。そりを聞いて瞬時に虚無感を感じたわけは、その間抜けな答えに拍子抜けしたせいだ。
「だが、放っておけないんだ」
「は?」
「行くぞ、不動」
鬼道は俺の手首を乱暴に掴んで、返事も聞かずに宿舎と反対側に歩き出す。説明もせずに実力行使だなんて鬼道らしくない。なにか引っかかりを感じつつも、今日は素直に従っておいてやることにした。それにしても、進んでいる方向はイタリアエリアの方でもない。円堂たちを追いかけるんじゃないのか。
「どこ行くんだよ」
「さぁな」
「ほんとに今日変だよな」
まああんな煩い奴らと過ごすよりはましだろう、と俺の手首を捕まえている手から抜け出して、鬼道の手首を掴み返した。
111125