「グリーン」
「なんだ?」
「好きだよ!」
「な、なにをいきなり…!」
レッドは滅多に好きだと言わない。そりゃあもう、レッドは俺のことが好きで付き合っているのだろうか、という不安を日常的に抱えるくらいには。恐らく告白以来聞いていなかったその言葉をようやく耳にできたのに、目を合わせているのがむず痒くて、ふいと顔を逸らしてしまった。すると急にまた違った種類の不安感が喉元へ込み上げてくる。なんでもっと嬉しそうにできないんだろうとか誤解を与えてしまったのではないかとかいう類の後悔で胸がいっぱいで、ささいなこと一つ一つが嫌われたんじゃないか、という不安に変わって鼻の奥をつんとさせる。視界の端に映るレッドの表情まではわからなかった。なのに、レッドの腕がいきなり伸びてきて、俺の肩をぐっと掴んだ。咄嗟に俺がレッドを見たせいで目が合ったけれど、彼の視線はまるで俺の瞳の孔から頭の中全部を覗こうとしているような気がした。
「グリーン好き、大好き、ちょー好き」
「うん」
レッドは怖いくらいに真剣な目をしているのに、俺の心臓をこんなに速く動かしているのは、恐怖ではなく嬉しさだった。
「グリーンは…?」
頬に熱が集まってくるのがわかる。相変わらず心臓はうるさく騒いでいるけれど、それにしてはおだやかな気持ちだった。さっきとはうって変わって、レッドの瞳は揺らいでいる。
「好き」
誰しもが一番言うのが難しいと思っているだろうその二文字を音にして出すのは、驚くほど簡単だった。すると、レッドは珍しく顕著に笑って、俺を抱きしめた。思っていたことは同じだったのかもしれない、と細くて頼りない腕の中で思った。
101125