黒/基緑 | ナノ

最後に時計を見たとき、針は10時過ぎを指していた気がする。じゃあ今は11時近くかなあ。緑川の部屋のドアを遠慮無しに開けると、薄暗い部屋の中、緑川はかけ布団を押しのけてむくりと起き上がった。どうやら寝ていたらしい緑川は「んんん」とかうなりながら目を擦っている。悪いことしちゃったな。

「んーヒロトー?」
「あーごめん、緑川もう寝てたんだ」
「うん、ねてた…どしたの?」
「いややっぱりいいよ。起こしてごめんね」
「よくないってば!大丈夫、もう目覚めちゃったし」

緑川は明らかに寝起きで眠そうで、声だってふわふわ浮ついていたけれど、その制止はおやすみを言ってドアを閉めるはずだった俺を簡単に諦めさせた。緑川の気遣いに付入ろうとしているわけではない。けれども、単純に一緒にいたいからという気持ちが緑川を休ませてあげることよりも優先してしまうなんて、俺は子供なんだろう。どうしても緑川の優しさに甘えてしまう。

「そう?」
「うん!」
「じゃあさ、ちょっと外出ない?」

緑川の手を引いて、ガラス窓を開けた。外に出ると空気は頬を刺すように冷たい。ベランダの淵に腰掛けて一息つくと、肺に溜まっていた呼気が外気に触れて白くなった。

「さむ、」
「手貸して」
「わ」

緑川が寒そうに指先を押さえるから、その両手を俺の両手で包んで、そこに息を吐いたら白い息でさらに包まれた。擦るようにして暖めていると、緑川は顔を真っ赤にしてそれを見ていた。寒いのに暖かそう。

「ヒロト、もうあったまったから!」
「確かに熱そうだよ、ほっぺたが」

俺に指摘されて頬に手を当てた緑川の目が丸く見開いた。やっと今気づいたらしい。恥ずかしがる緑川もかわいいなーなんて思ったり、薄く張った涙の膜にゆらゆらゆれている月明かりがきれいだなあとか思ったり。

「言うなばかっ」
「ごめんごめん」

なんて言いつつも口元は緩んでしまう。むっと唇を噤んでにらんでくる緑川は怖いわけなんてないけど、肩をすくめてわざとらしく顔を背けて見せた。そして俺が空を見上げると緑川もつられて上を見た。澄んだ空気を通して見える空には大小さまざまの星と月がひとつ散らばっている。

「きれいでしょ。今日はいつもよりも寒いから、いつもより綺麗に見えるね」
「うん、寒いけど、いいなあ……」

ふわぁ、と音を立てて緑川が欠伸をした。涙が溜まった瞳は星空を閉じ込めたみたいにキラキラしていて、ゆっくりと細くなっていく。

「ねむー」
「ねよっか」
「うん、ヒロト一緒に寝よ」
「はいはい」

手を引かれて緑川と一緒にベッドに倒れこんだ。一人分のベッドは少し狭いけれど、その分温かい。

「おやすみ」

目を閉じて真っ暗の瞼の裏に映るのは夜空みたいな瞳。







101117








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