キミ以外いちゃ嫌だ/円風 | ナノ

ガラスについたいくつもの水滴を通して見た空は真っ黒で星も月も見えない。止みそうにない雨が地面に叩きつけられてざあざあざあと音を出す。こんな夜はどんなに食べた後でも胃が空っぽに感じるくらいに寂しい。えんどう、会いたいよ、なんて口には出さないけれど、心の中には円堂に抱いている純粋で綺麗な感情から自分自身でさえ認めたくないくらいの汚い感情までしまってある。つまりそれ全部で円堂が好きだということで、だから人を好きになるってことは苦しい。
携帯電話を手にとって開くとディスプレイには『23:15』の文字しかない。多分、円堂はまだ起きている。それなのに着信履歴さえ開けないなんて、気持ちと行動力は反比例するらしい。



***




朝になっても雨は止まない。ざあざあざあと聞き飽きた音が鳴り続けている。時折地面が震えるように鳴る低い音は雷で、天気予報によると夕方まで天気は大荒れらしい。

「風丸ー、連絡網回ってきたわ、今日の練習中止だって」
「ん、わかった」
「まあ、たまには休みなさいね」
「ごめん、ちょっと出てくる」
「え、危ないわよ!風丸!」

母さんの制止は聞き流して、俺は家を出て走り出した。雷門での練習が無くったって、円堂はきっと鉄塔広場で練習しているのだろう。雷だって鳴ってるのにばかだ。鉄塔だって木だっていっぱいあるのに落ちたらどうするんだよ。でもそんな心配さえも円堂に会いたい気持ちの建前なのかもしれない。

「えんどうっ」
「え、風丸?」

予想した通りのジャージ姿でタイヤで特訓していた円堂は、俺の声に気づいて駆け寄ってきた。

「すっごい濡れてるじゃんか・・・なんで来たんだよ!」

円堂は叱るように言ったけれど、円堂のほうが濡れてるじゃないか。すぐにでも言い返したかったけれど、まず怒鳴られたことに怯んでしまって、目を合わせられなかった。

「なんでって・・・雷鳴ってて危ないのにどうせ練習してるんだろうなあって思って心配したし、昨日に限って電話かけてこないし、寂しかったし、会いたかったし・・・・・・」

情けなくもごもご口を動かしていたら、悲しくなってきた。なにやってんだろ。涙は今にもこぼれてしまいそうなくらいに溜めてしまっている。だけど、雨と一緒に涙が落ちたとき、円堂は俺を抱きしめた。円堂の腕の中は濡れているのに温い。唇にやわらかくて濡れた感触がした。

「ごめん、サンキューな」
「え、」
「なんか、ほっとした」

円堂は唐突に俺にキスをしたらしい。抱きしめられただけでどきどきしてる俺の気持ちなんて一切考慮に入れてくれなくて、ただ唇を指で覆って固まるしかできない俺を円堂は笑った。

「とりあえず、帰って風呂だな」
「あ、ああ」
「俺んち来るだろ?」
「ああ・・・ってちょっと円堂!」

有無を言わさず手を取られて、止みそうにない雨の中を駆け足で抜けていく。円堂と一緒なら鈍色の空だってなんだっていいかもしれない。










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