先月の挑戦者とバッジ取得者の集計とその割合をグラフにまとめる作業も終わり、今はただ何もすることがない虚しさと、さして広くもない事務室の壁に囲まれている閉塞感をひしひしと感じていた。
つまり普段は何とも思わないことに対して違和感を感じるほどに俺は暇なわけで、だからあの山の頂上でひきこもっている幼なじみのあいつについて考えることにする。
ライバルだった昔を通り越して、もはやかすりもしないところへ行ってしまったレッドは、多分、俺のこととかどうでもよくて、だから結局頂上にいることを止めないんだろう。ほんと俺ばっかり会いに行ってばかみたいだ。重くなった心臓がずしんと胃のあたりに落ち込んでくるような。
とにかくきもちわるくなって、ばったりと机に突っ伏して、そうしたら真っ暗で余計に寂しい。
「レッドー帰ってこいよばかやろー」
「ん、呼んだ?」
「へ?」
その声はなんでもないことのように響いていた。けれど誰かここにいるなんてことはほぼありえないし、ましてやその誰かががレッドなわけ――。
「…うそ」
ないはずなのに、事務椅子をからりと回して振り返ってみたら、空耳でも妄想でもなく、レッドは当たり前のようにそこにいた。挨拶は片手を上げて「よっ」て言う、ただそれだけだ。
「え、なんでいんの?」
「なんか会いたくなったから降りてきた」
「会いたくなった」という点について、どきんと胸が高鳴ったけれど、レッドはいつもと同じく飄々としているから、恐らく鵜呑みにしてはいけないのだ。
「…いやいやそんなばかな」
レッドはよく俺のことをからかう節があるし、どうせこれもただの冗談のはず。そんな思い込みから言葉を発すれば、レッドは珍しく眉根を寄せた。
「だってグリーン最近来てくれなかったっしょ」
「それは…忙しかったから」
「そうなの?」
「ぅ…ああ」
わざわざ確認してくるレッドは俺の単純すぎる嘘を見抜いているのかもしれない。でも意地張ってましたなんて言えるわけないから、曖昧に濁した返事をしてしまった。
「…まあいいや、グリーンも俺のこと気になってしょうがなかったんだってことわかったしね」
一瞬なんのことかわからなかったけれど、レッドに会ったという印象が強烈すぎて忘れていたのだ。俺のひとりごとをレッドは聞いていたじゃないか。つまりそれは胸の内に留まらないくらいに会いたいって思いが強かったということで、レッドにそれがばれてしまっていたのが恥ずかしくて悔しい。
「ああもう、やっぱかなわねー」
「あは、悪いね」
なにもかも見透かしてますって態度で、俺の今日はあまりセットしてない髪をくしゃくしゃ撫でるレッドが、悔しいけれど好きなのだ。
101107