「どうしたの?元気ないわねえ」
「べっつに」
テーブルの上に突っ伏して、昨日レッドが言った言葉の反芻が止まらない。いっそ夢だと思えれば楽なのに、あまりにも鮮明に届いたものだから脳裏に焼き付いて何度もその場面が瞼の裏で繰り返された。
ことん、と響く音にようやく顔を上げれば、目の前にはティーカップとシフォンケーキが用意されていて、そこになみなみと紅茶を注いだ姉さんは向かいの椅子に着いた。
「久しぶりに帰ったんだから、食べなさい」
「ん、ありがと」
カップの縁を唇につけた瞬間あのキスの感触を思い出して、中途半端に紅茶を飲み込んでむせた。げほげほと咳き込んで胸がくるしい。
「もう、大丈夫?」
「ごほっ…ごめ、大丈夫っ」
「なんだか今日のグリーンを見ていると心配になるわ。レッドくんと何かあったんでしょう?」
「え、なんで」
まさか姉さんの口から彼の名前が出るとは思わなくて、目を見開いた。するとくすくす笑ってやっぱりか、とひとり納得する姉さんに、なんでわかるんだよと問いかける。
「だって、グリーンっていつも格好付けてるわりに、レッドくんにだけは振り回されてるでしょ」
「格好付けって…」
「なんだか、離さないように必死にしがみついてる、って感じ」
さらさらと姉さんは言うけれど、それってすごくかっこ悪いじゃないか。ぐさりぐさりと辛辣な言葉が胸に突き刺さって、はあああと腹の底から出たようなため息を漏らしてテーブルに伏せると、髪の毛をぐしゃりとかいて頭を撫でられた。
「ほんとに好きなのよねぇ」
そっか、好きだからなのか。今こんなにくるしいのも、あのとき自分がわからなくなったのも。