かくれんぼ/竜銀 | ナノ



「クロバット」

一声呼びかけると洞窟内をぐるりと旋回してクロバットは俺の側にやってくる。目線より少し高いところで、浮いているこいつの喉元を撫で、よくやったなと一声かけてからボールに戻す。6つのボールの中のポケモンたちはもう疲れきっているだろうから、およそ半日籠もっていた竜の穴を後にしようと、俺は出口へと足を踏み出した。だが行く先を見ると赤髪のマントを羽織った男──ワタルが立っていて、俺が気づくのを待っていたかのように、コツンとブーツの踵を鳴らしてこちらに歩み寄ってきた。

「やあ、シルバーくん」
「う…またお前かよ…」

2週間ほど前からだろうか、ワタルは俺が竜の穴で修行をしているとふらりと現れるようになった。初めてチョウジのロケット団アジトで出会ったころから、互いに良い印象は与えていなかったはずなのに、彼はその俺に興味を持ったと言った。知らずのうちに当初持っていた反発心は薄れていたが、そういう突飛な言動に対してどう振る舞えばいいかわからない…つまり、苦手意識に近いものを感じるようになったのだ。
今も顔が引きつっているのがわかる。ワタルはまばたきの合間に瞼を伏せて息をついた。

「嫌だった?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「じゃあさ、そろそろ俺のこと名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」

びくりと肩が跳ねる。確かに俺はワタルのことを名前で呼んだことが無かった。それは勿論意図してだ。
ずい、とワタルは俺の身長に合わせて身体を屈ませた。至近距離で合わされた瞳から目が離せなくて、逃げ場のない錯覚に陥る。そうだ、こういう支離滅裂な会話とか突拍子無い行為が苦手なんだ。意思に反して心臓が脈を速くさせる。

「シルバーくん?」
「えっ、あ…」

小首を傾げて聞かれて、やっと瞳は自由に動き回れるようになったけれど、肯定も否定もできず言葉が出ないほど動揺していた。 見とれてたなんて。
ふふ、と声が聞こえて逸らした目線を戻すとワタルは笑っていた。

「っおい、笑うなよ!」
「ははっ、ごめんごめん」

そう言って俺の頭を撫でるワタルを睨んでもそのだらしのない笑顔は一向に直らない。

「名前呼んでくれるのはまた今度でいいよ」

ワタルはじゃあね、と俺の頭から手を離して立ち上がり、踵を返した。俺は去っていく彼を駆け足で追いかけて

「待って、ワタル」

驚くほど簡単にこぼれたのだ。






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