凍傷になりませんか | ナノ

白い霞のなかを歩いていくと、人間の後ろ姿があった。近づいて、数十センチの距離になっても彼は振り向かず、ただ真っ白ななかで立っているのだ。肩に触れると少し積もった雪が冷たい、この人も冷たくなっているのかもしれないとおもうほどに。しかし、ゆっくりと振り向いた彼は無言で俺を見つめ、ボールからピカチュウを繰り出した。数歩身を退き、腰のモンスターボールに触れた。そんなに遠くないはずのピカチュウは白に埋もれてほとんど見えない。彼の赤は見えなかった。モンスターボールが冷たい。俺の手も冷たい。手を離し、臨戦態勢のピカチュウへと歩み寄った。赤い頬が音をたてている。しゃがんで両手を伸ばすと身を縮こまらせたが、背を撫でてやると大きな目で俺を見つめていた。びりびりという音は止み、小さな稲妻ももう見えない。軽く頭を撫でてやってから手を離し、立ち上がって次は半袖の彼の腕を掴んだ。その冷たさと感触はまるで氷のモニュメントのようで。

「すいません、」

その一言のたくさんの意味がこめられたうちの三割ぐらいしか彼には伝わっていないと思う。未だ無表情の彼を半ば引き摺るように洞窟内部に連れていった。ピカチュウも無言でついてきた。






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