飛んで火に入る夏の虫/臨帝 | ナノ


茹だる暑さとはこのことか。この日照を浴びて蒸発せず無事に家に帰れたとしても、クーラーも扇風機さえもない点を考慮すると、どうも一夏どころかこのゴールデンウィークさえも無事に乗り越えることができない気がする。のらりくらりと冷やし中華片手に歩いていると、初夏に似合わない黒い影をアパートの前に発見してしまった。いや、これはきっと暑さで頭がおかしくなったのだ。それか多分蜃気楼だ。だが、その影は次第に近づいてきて目の前で停止すると、僕の顔を覗きこんだのだった。

「みーかーどーくんっ」
「ああ、ついに目まで暑さにやられたのかな…」
「いや、現実だからこれ」
「うそだ…」
「…あからさまにショックな顔しないでよ」

ひどいなー帝人くんはとかなんとか言いながらくねくね動く黒服の人物、折原臨也は、一応池袋で最も怖れられている人物の一人である。がしかし、今の彼にはそのような風格も皆無で、今の僕には面倒な人物にしか思えない。この直射日光の下で何故黒の長袖が着ていられるのか不思議でしかたないし、汗の一滴もかかず涼しい顔をしていられるわけもわからない。しかし一度臨也さんにつきまとわれると躱すのは至難の業である。とにかくここは相手の出方を窺うのが得策だと鈍い頭で考えた。

「一応聞きますけど、何しに来たんですか?」
「そりゃあせっかくのGWなんだから帝人くんにデートのお誘いをとね」
「はあ、」
「でもどうやら君は疲れているようだ。まあこの暑さだからね。だから今日は休んだ方がいいんじゃないかな?あ、そういえば帝人くんの部屋にはクーラーも扇風機も無かったよね?このままだと熱中症で倒れちゃうかも、なんてねえ。そんな君を見つけた俺には、君を助けないといけない義務があると思うんだ」
「そういうのお節介って…」
「俺の事務所、冷たいサイダーもアイスもたくさんあるけど」
「…」

臨也さんはにっこり笑って僕の額に貼りついた前髪を掬った。こめかみから一筋、汗が伝って落ちた。

「…お邪魔します」

ほら、やっぱり捕まった。







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テーマ「人外ファンタジー」
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