どうやって伝えようか/貞53 | ナノ


アスカは今日、加持さんと出かけるらしい。授業後のショートホームルームが終わると、彼女は通学鞄の持ち手を掴んで意気揚々と駆け出してしまった。その後ろ姿を見ているだけでアスカの感じていることが伝わってくる気がする。きらきらしたそれは僕の胸の中に入ると同時に途端に褪せて、ため息になって僕の体から抜けていった。素直な女の子はかわいくて、素直でもなければ女の子でもない僕は相当にかわいくないのだ。ずるずると机に突っ伏すと、頭上からあののらりくらりとした声が降ってきた。

「シンジくーん、帰ろうよー」

僕の気も知らないで、と心中で悪態を吐いたけれど、知られても困るのでどうしようもない。渚はべたべたと僕の肩をたたいてゆらして、どうかしたの?と聞いてくる。確かに僕はどうかしているよ。

「ああもう、渚、うるさい」

こんなことが言いたいわけじゃないのに。ゆっくり上体を持ち上げると、渚は唇を尖らせて僕を見ていた。

「…せっかく心配してあげたのに」
「別に頼んでないし」
「なにそれ…」

渚がぽつりと息を吐いた。くるりと踵を返してドアの方へ向かって歩いていく。僕は景色を見るようにそれを見つめて、渚がそこから消えたと同時にまた机に伏した。
渚が僕に好意を持っていることはだいたいわかる。でも初めてのそれに僕はどうしていいかわからなくて、上手くいかないことが怖くて自分からはね除けて、それなのに欲してしまう僕は我が儘で好かれるべき人間ではないのだ。目の奥が締め付けられるように痛い。生ぬるい水が腕に落ちてきもちわるかった。



それが乾いてから僕はようやく動き出した。教室から出て廊下を歩いて、渚が隣にいないことがかなしくてまた前が見えなくなる。

「これぐらいで怒るなよ、ばか渚…」
「怒ってないし」

前方から聞こえた声に反射的にびくりと身体がふるえた。乱暴に目を擦るといくらか視界がはっきりとして、そこに渚を見つけて僕の足は止まってしまった。なんで?帰ったんじゃなかったの?渚は僕に近寄って、僕の手を取って握った。

「じゃ、帰ろっか」

なんで泣いてるのかとかそういうことは一切聞かずに手を引いて歩きだす渚に、僕は救われたような気がした。



校門を出た帰り道で、渚は立ち止まって振り返る。何か言いたそうに開かれた唇からはしばらく何も出てこなくて、渚は僕から目線を反らせて首筋を掻いた。

「…シンジくん、今日僕の家に来ない?」
「え、」
「その、貰ったお菓子が余ってるんだけど…」
「…んーじゃあ、いいよ」
「ほんとに!?」

渚は目を見開いて、僕の肩を両手で掴んだ。その勢いに驚きながらもゆっくり大きく頷いて見せると、渚は子どもみたいに笑って僕を見た。今は他の理由がないと肯定さえできないけれど、ちゃんと言わなきゃいけないんだ。

「渚、待っててくれてありがと」
「…うん」








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