はるのゆき/臨帝 | ナノ

「あ、起きた」
「んー…帝人くん…?」

目を開けるとそこには帝人くんが立っていた。まだちゃんとピントの合わない視界に置時を入れると、針はだいたい11時半を指している。俺はデスクに着いて情報収集やらチャットやらしているうちに寝てしまっていたらしい。まさか帝人くんに見られるとは不覚だった。

…ん?あれ、なんで帝人くんがいるの?

瞼を擦っても擦ってもそこに帝人くんがいるのに変わりはない。俺は帝人くんのアパートに押し掛けたことも、事務所に連れ込んだことも多々あるけれど、帝人くんからやって来たことや誘われたことは無い。だからここは何か俺と早急に話さなければならない用事があると考えるのが自然だろう。だが、何を?帝人くんやその周りを巻き込むような情報をばら蒔いた覚えはない。強いて言うなら帝人くん自身にちょっかいをかけているとは思うけれど、それによって寧ろ避けられているような気さえする。つまり全く心当たりがないのだ。
帝人くんはくすくす笑ってデスクに両手で頬杖をついた。目線の高さが一緒になって、さっきよりもずっと距離が近くなる。

「臨也さんも居眠りするんですね」
「まあ俺も人間だからねえ」
「喋り方眠そー」

いつも俺と接するよりもずっと楽しそうに話す帝人くんは、確実に俺の寝起きを面白がっているみたいだ。まあ、俺に向けられた帝人くんの笑顔なんて久しぶりに見るから、気分はいい。
デスクに伏せたままの身体を持ち上げて軽く伸びをすると、ばさり、と肩から何かが滑って床に落ちた。それを拾って見てみるとダッフルコートのようだ。ちなみに俺のものではないが、何度か目にした記憶がある。だが、考える間もないまま帝人くんが手を伸ばしてそのコートを奪ってしまった。

「ちょっとみかどくん、」

帝人くんはそれを抱えるようにぎゅっと握りしめていた。そうだ、見たことあると思ったら、これを着た帝人くんを見たことがあったのだ。これが帝人くんのものってことは。

「もしかして俺のためにかけてくれてたの?」

ふわふわと浮き上がりそうになる口角を抑えながら問うと、帝人くんは空中に散らばった言葉を探すようにおろおろと瞳を動かして、唇をはくはくと開閉させた。デスクから身を乗り出して帝人くんに近づいて、今度は俺がくすくす笑う番だった。帝人くんは俺が思っていたよりも俺のことが嫌いではないらしい。

「う、だって甘楽さんが挨拶無しで落ちちゃったから…だからなんていうか、その、心配して、来てみたら寝てるし、寒そう、だし…へ、わっ、」

恥ずかしそうにだんだん俯いていく帝人くんを腕を伸ばして抱き寄せた。

「あーもう帝人くん好き、大好き」
「臨也さん!ちょっ、離して!」

なんて言いながらも、帝人くんのコートを持ってない方の手は、胸にしがみつくだけで俺を押し返そうとはしていない。調子に乗って腕が細い肩に沿うようにぎゅう、と力を強めたら、そのぶん帝人くんのしがみつく手に強く握りしめられて、額が俺の左肩に寄りかかってきた。そのとき、どきんと大きく鳴った心音は帝人くんの掌に伝わってしまっただろうか。







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