「はろー」
「な、」
ドアを開けたそこにいたのはレッドだった。相変わらずの無表情で能天気にひらひらと手を振る奴に対して沸々と苛立ちが積もっていくのがわかったが、それを汲み取ろうともせずレッドは俺の家にずかずかと入っていく。
「あ、ナナミさんこんにちは」
「レッドくん!?久しぶりね!」
そして姉さんには普通の挨拶なのか。姉さんは一通りレッドのことを褒めたあとに、椅子に座らせた。久しぶりの客だと上機嫌でちょうど焼けたばかりのクッキーをテーブルに置く。
「ほら、グリーンも座って。お茶淹れるから待っててね、レッドくん」
そう言い残して姉さんはキッチンに消えてしまった。俺はレッドの斜め向かいの席に着くと、レッドは一見感情の込もっていなさそうな目で俺を見てきた。
「…なんだよ」
「グリーンなんか怒ってるー?」
「っ、怒ってねぇよ」
言葉に詰まったのは、もしかしたら怒っているのかもしれないと思ったからだった。ずうっと音信不通で、やっと帰ってきたと思ったら変わったのは背丈だけで、まるで毎日会ってましたというような顔で言ったのが「はろー」って。
「はあ、レッドはわかってねーよ」
「ん?何を?」
「はあー…んむっ」
口内に何か入ってきたかと思えば、仄かな甘みを感じた。クッキーだ。どうやらレッドが突っ込んだらしい。
「まあクッキーでも食べて元気だしなよ」
骨まで細いだろうという手が伸びてきて俺の頭をぽんぽんと撫でた。どうして落ち込んでいる原因の奴に慰められているのだろうか。クッキーはチョコレート味だったようで、甘さだけでなくほろ苦さまでもが口内に広がる。複雑な味だ。けれども俺を撫でていたレッドは無表情ながらもどこか微笑んでいたような気がして、そう思えば胸のつかえが降りていくような気になった。
「ちょっと、グリーン、待ちきれないからって食べちゃ駄目でしょ!」
声のした方へ振り向くと姉さんがティーセットの乗った盆を持って立っていた。
「ほら、レッドくんは行儀よく待ってるのにね」
「ねー」
「ちょっ、おま!」
レッドは明らかに笑っていた。無表情はどうしたと言ってやりたいくらいに、口元を歪めたのを俺は見た。こいつのことでいちいち落ち込んでいた俺が馬鹿だった。
「レッドなんか…」
「きらい?」
「うっ…」
続きが言えなくてテーブルに突っ伏した。どうしろって言うんだと盛大なため息を吐いたら、また頭を撫でられた。もうわけわかんねえ。
「こんなグリーンだけどまたよろしくしてあげてね」
「はい、おねーさん」
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