瞳を曇らせるもの/静帝 | ナノ

「何読んでんだ?」
「わ、」

静雄は帝人の背から腰へ腕をまわすと自分の胸へと引き倒した。帝人の小さな背中はすっぽりと静雄の胸腹に収まって、背から伝わる静雄の体温は帝人の脈を狂わせはじめる。彼の見開かれた双眸が自分に向くのにも構わず、静雄は帝人が手に持っている雑誌のようなものを覗きこもうと首を伸ばした。しかし、帝人はそれを静雄の視界に入る直前にばたん、と閉じて、丸めて腕の中に抱え込んでしまう。

「な、なんでもないですよー」

帝人は静雄に笑いかけたが、その口元はひきつっていて、いかにも無理矢理作りましたというような笑顔だ。それが見られたくないものだと言うことは一目瞭然の反応で、静雄は隠し事をされているようで気分が悪くなった。

「なんで隠すんだよ」
「いや別に大したものじゃないんですってば」
「じゃあ見せてくれてもいいだろ」
「それはだめです!」

帝人はさらに腕にきゅう、と力を込める。そこで静雄は帝人の頬が赤らんでいることに気付いた。帝人は何か見られたら恥ずかしいものを持っているらしい、となればその恥ずかしがる姿を見たくなるのは恋人として仕方がない。
おそらくそれを帝人の腕から引っ張り出すことは、静雄の腕力をもってすれば容易だろう。けれども静雄はそれをしなかった。

「ふーん、なんで見せてくんねぇの?」

静雄は帝人の耳許で、鼓膜を這うような低い声で尋ねた。ぞく、と背筋が震えて帝人は目を見開く。

「だ、だめったら、だめですっ」

おろおろと目線を游がせる帝人の耳の輪郭を静雄は舌先で辿るように舐める。背筋が痺れるような感覚に、帝人が小さく漏らした声ははっきりと静雄の耳に届いた。にやりと笑みを浮かべてもう一度帝人に問う。

「教えてほしいんだけどなぁ」
「ぁ、や…ですっ…てば…」

耳の裏にキスをして、耳の下、首筋、と唇を下ろしていく。触れるたびに帝人は鼻にかかった吐息を漏らして、それでも声は漏らさないと唇を噛み締めていた。

「みかど、」
「ん、ふぁ…」

帝人の頬に掌を宛がって顔を此方に向かせると、驚いて少し開いた唇にキスをした。静雄はその僅かな隙間に舌を捩じ入れて、中をかき回す。間からは吐息とくちゅりと中を混ぜる音が漏れて、帝人は脳が犯されているような気さえした。

「は…ぅ、ん…」

帝人の目には厚い涙の膜が張って、うるうると瞳を揺らしている。静雄は唇を離して、目尻に溢れそうに溜まったそれを舌先で舐めとった。そして、既に帝人の腕から抜け落ちていたその雑誌を手に取ってぱらぱらと捲る。帝人は肩で息をしていて、抵抗するどころではないようだった。

「ん…?観光雑誌かこれ?」

表紙を見ると“る●ぶ”と某有名観光ガイドの雑誌名があった。どうして帝人はこんなものを隠したがったのだろうと疑問に思う。

「も、静雄さん意地悪ですっ…」
「ごめんごめん、でもなんでこんなもん隠すんだ?俺はてっきりエロ本の類かと…」
「なっ、違いますよ!静雄さん、この前連休取れたとか言ってたでしょ?だから、その、旅行とか行けたらいいなって思って…」

だんだん語尾を小さくして、帝人は俯いてしまう。静雄は凭れかかるように帝人を抱き締めて俯いたままの帝人に尋ねた。

「んで隠そうと思ったのは、俺が断ると思ってたからか?」
「う…だって仕事で疲れてるのにな、とか考えてたらなんとなく言えなくて…」
「断るわけねぇだろ」

静雄は帝人の頭に手を置いて髪の毛をぐしゃぐしゃにするように撫でて、少し恥ずかしそうに顔を横に逸らす。

「つぅか、すげぇ嬉しいし」
「じゃあ、」
「いいと思う。旅行行くか」

そう言った静雄を見上げた帝人の瞳は嬉しそうにきらきらと輝いていて、静雄は虹を思い浮かべた。雨の跡と考えれば満更ではないかもしれない。

「というか静雄さん、そろそろ離してくれませんか?」
「それは嫌だ」
「え、」

静雄は帝人が抜け出せないように更に腕に力を入れて抱き締めた。帝人が不安そうに静雄を見上げているが、構わずに片手をジャージの裾から中に入れる。

「黙ってた罰ということで」
「ちょっ、待って…ひぁっ…」

帝人の瞳はまたうるうると滲んで、唇は濡れた声を吐き出した。








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