「臨也さんて8割ぐらいニートですよね」
臨也は碁盤の上の黒のクイーンを摘まもうとする手を止め、眉を潜めて帝人を見た。
「心外だなあ。ニートと違って俺はちゃんと人の役に立っているつもりだよ」
「寧ろ関わったほとんどの人を不快にしてますよね」
「そうかい?まあ愉快か不愉快だなんて基準は人それぞれだからね。他人の気持ちを俺や帝人くんが決めることはできないよ。でも少なくとも俺は愉しいな」
「僕は苦痛ですけどね」
「そうだ、自分の気持ちに対しては正直であるべきだよ」
臨也は帝人の肩に手を置くと、ずい、と鼻先1センチというところまで顔を近づけた。愉快そうに笑った瞳と怪訝そうに細められた瞳が合う。
「帝人くん今どきどきしてるでしょ?」
「なに言ってんですかきもちわるい」
帝人がふいと逸らした目線は宛もなく彷徨ってふわふわと宙を浮く。臨也は口元に意地の悪い笑みを浮かべると、それを帝人の耳のそばまで近づけた。
「胸、苦しいんでしょ」
「ちがいます」
「ほら、僕といると苦痛って言ったのは帝人くんじゃないか」
「そういう意味じゃないです」
「僕のことを好きって言ったら解放されるよ、多分」
帝人は「それができないから苦しいんです」と言うことさえできなかった。
100322