からす/臨帝 | ナノ

「竜ヶ峰さーん、宅急便でーす」
「はーい」

届け物なんてめずらしいな。両親から連絡ももらっていないし、ネットショッピングをしたわけでもないのに。印鑑を取って玄関の扉を開ける。

「ここに押してくださいねー」

と言われて差し出されたのは、婚姻届だった。あわてて判を押しそうになる手を止め、配達員であるはずなのに服装が真っ黒なことに対して、嫌な予感を感じつつ顔を上げると。

「やだなあ、そんなに睨まないでくれよ。ちょっとしたジョークじゃないか」

その嫌な予感は的中してしまった。目の前に居るのは折原臨也。この人はとにかく人を陥れるのが大好きな捻曲がった性格の持ち主だ。本人曰く、人間が大好きで、人間のあらゆる面を見たいのだそうだ。取り分け人が常識や世間体を気にして被っている表面上の性格が崩れ、本性が見える瞬間が大好きだそうで、とにかく僕は、彼よりも質の悪い人間を見たことがない。

「えっと、宅急便じゃないみたいなんで閉めますさようなら」
「っとー、いやあ帝人くんの部屋に入るのも久しぶりだなー」
「なっ、」

臨也さんは僕がドアを閉めることを読んでいたように、その隙間に身体を滑り込ませて部屋にずかずかと入ってきた。なんという身のこなしだろう、じゃなくて…。面倒くさいことになってしまった…。
臨也さんは子どもみたいな好奇心に満ちた笑顔で僕の部屋を物色している。

「ていうか前来た時も思ったけど、帝人くんの部屋ってあんまり物がないよね」
「まあ一人暮らしですからね」
「ていうかさっきから探してるけどエロ本とかもないよね」
「ちょっと何言ってんですか!」

人の家にきて何を探してるんだこの人は!無かったからいいものを…。そういった類いの本はたまに正臣やクラスメイトに借りはするものの、自分で買ったことはない。

「これぐらいの年の子は持っているものだとばかり思っていたよ」
「臨也さんは持ってるんですか?」
「んー?」

単純な疑問だった。臨也さんは一見そういうものには興味が無さそうだけれど、実際はどうなんだろう。でも臨也さんはなぜかううんと唸って考えこんでいた。持ってるか聞いてるだけなのになあ。

「そういうビデオとか本とか、所詮は演技だろう?そういう偽物を見ても何の面白さも感じないんだよね。だから見てることしかできないよりもさ」

そこで僕は、臨也さんが僕のほうへだんだん歩み寄って来ていることに気付いた。後退りするも壁際にまで追い詰められてしまう。そして臨也さんは僕の目と鼻の先まで顔を近づけた。

「実際にやってみた方が楽しいと思わない?」

臨也さんは眼前で瞳を細めて笑みを浮かべていた。いつもよりも低くて甘い声色が鼓膜を揺らせて脳を酔わせたのかもしれない。だって、臨也さんをかっこいいと思うなんて信じられない。僕は逃げられるのに逃げようとしない自分に気が付いた。






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