掌の内と外/臨帝 | ナノ

「あ、帝人くんじゃーん☆」
「え…」

帝人が校門前で鉢合わせしたのは折原臨也、この池袋で危険とされている人物のひとりだった。だが“鉢合わせ”という言葉は“互いに思いがけず出会うこと”を意味する(広辞苑より)。この場合、確かに帝人は臨也と出会うなんて思いもしていなかっただろうが、臨也はどうだろう。彼は帝人がこの来羅学園に通っていることを知っており、彼が職業柄、情報収集能力に長けていることを考慮すれば、帝人が委員会のない限り、放課後学校に残ることは無いということも知っているかもしれない。その真偽は定かではないが、臨也が帝人に会うという目的を持ってこの場所に立っていたのは確かだろう。よって“鉢合わせ”というのは不適切で、ここは臨也が帝人を待ち伏せしていたと捉えるのが自然なようだ。
帝人は臨也に気付いた瞬間から固まっていて、臨也はそんな帝人を見てくねくねと腰を揺らせる。

「太郎さんそんな見つめないでくださいよー!恥ずかしいじゃないですかっ」

頬に掌をあててきゃあきゃあ叫ぶ青年がどこにいようか、いや、現にここにいるのだが…。帝人は甘楽のネカマ口調でべらべら喋る臨也を突き刺すように冷めた目線で一瞥してから、何事も無かったかのように彼の横を通り過ぎようとした。が、臨也がそれを許すわけもなく、帝人のショルダーバッグの紐を掴むと帝人はがくり、と揺れて止まり、いとも簡単に彼の歩みを邪魔することができた。振り向いた帝人の表情は機嫌の悪さが滲み出ているようだ。

「ちょっと、離してください」
「やだ」

その二文字に帝人の表情は更に険しくなるが、臨也はそれと正反対に笑顔を極め込んでいた。

「むかつきますねその顔」
「え、俺が美男子だからって嫉妬は」
「ほんとむかつきますねその口」
「なになにもしかして帝人くんが塞いでくれるの!?」
「だあああもう!とりあえず何しに来たんですか?」

どこを否定しても躱されるどころか鬱陶しさが倍になって返ってくるので、とにかく早く臨也から逃れたいがために詰め寄って目的を問いた。だが臨也は、帝人のその行動を狙っていたとでもいうように、先刻とは異なった笑みを見せる。ぞわりと肌が粟立つような笑みだった。帝人は身を引こうとするが手遅れで、腕を引かれ、逃げられないようにと壁に背を押し付けられた。

「ちょ、何す…ひっ」

臨也が顔を近づけたと思えばべろりと耳を舐められて、背筋を緩い痺れが駆け上がる。首筋に当たった柔らかい感触は唇で、軽く甘噛みするとすぐにそれは離れた。その代わりに臨也の顔は帝人の鼻先1センチ先で妖艶に微笑んでいる。

「こういうのの続きしたいって言ったらどうする?」

帝人は暫くぱちぱちと瞬きをして臨也を見ることしかできなかったが、その意味を理解するとかあ、と頬を赤らめて思い切り臨也を突き飛ばす。帝人は非力であったが、僅かに二人の間に隙間ができたのをいいことに、臨也の懐からするりと抜けて逃げ出した。臨也はその帝人の後ろ姿にひらひらと手を振っている。

「次に会うときは、」






100318









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