二度目のキス/静帝 | ナノ

これは静雄の理性と本能の格闘の結果だった。
静雄は恋人である帝人のアパートに呼ばれて、話したり漫画を読んだりと緩い時間を過ごしていたはずだった。けれども静雄はその時間を楽しんでいたのではなく必死に守ろうとしていたのだ。例えば身長の差からどうしても静雄を見る帝人が上目遣いになってしまうことや、付き合っているからこそ帝人が静雄の胸にもたれかかってくること、帝人が本棚に手を伸ばすときTシャツの裾からちらりと細い腰が見えることなど、そういうことが静雄の理性を押さえつけて丸め込もうとしてくる。しかしながら静雄の理性も屈強で、今までにも何度もそういった危機を体験してきたが、決して折れることはなかった。だが今回は違ったようで。
帝人はふわあ、と大きく欠伸をすると、布団の上に座りこんだ。

「眠たぁ…、ちょっと寝てもいいですか?」

その時の帝人の表情を静雄は一生忘れないだろう。眠いせいでとろんと開かれた瞳は、先程欠伸をしたせいで涙をいっぱいに溜めてうるんでいる。薄く開かれた唇からはすう、と息を吐く音が聞こえ、うぅんと声を漏らして手の甲で目を擦る。静雄は衝動的に帝人を押し倒していた。

「えっ、静雄さん?」

眠いはずだった瞳を丸くして帝人は静雄を見つめる。ただ純粋に驚いている帝人を見ているとぢくりと胸が痛んだ。けれどなけなしの理性ではどうにもその衝動は止まらない。

「…帝人」

いつもよりも低い声で呼ばれて、帝人はびく、と肩を揺らす。それさえも愛しいというように、静雄は帝人にくちづけた。
帝人の開かれた唇に舌を捩じ込むように入れる。帝人はまた涙を浮かべ始めた瞳を細めて、静雄が上顎を擦ったり舌を舐めあげる度に鼻にかかるような声を漏らした。

「んぅ…」

唇を離すと、帝人は足りなかった酸素を取り込むように肩で息をし始めた。上気した頬と目尻に溜まった涙の粒が扇情的で、静雄は思わず息をのむ。だが、最後まで静雄を引き留めていたのは理性で、罪悪感がそこから先に伸びようとする腕を引き留めている。静雄はその行き場を無くした手で頭を抱えた。

「ああもう、わりぃ帝人…俺、今日はもう…」
「いいです、続き、してください」
「え?」

帰るわ、と言おうとした矢先、帝人から予想外の言葉を聞いて、静雄は呆気にとられたように帝人を見た。

「ていうかこんな中途半端で終わらせるなんてひどいです」

顔を真っ赤に染めた帝人は静雄の首に腕を回す。どくり、と静雄は血液の流れる音を聞いた気がした。もう後には引けない。

「僕は、静雄さんにだったら何されてもいいですよ」

そう言ってふわりと微笑んだ唇にしたくちづけは、それに似合わない噛みつくようなキスだった。






100318









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