離れることはないと思っていたのではない。ずっと一緒にいられると思っていたわけでもない。“離れる” なんて言葉すら十代の頭の中にはなくて、ヨハンがこのデュエルアカデミアにいることが一番自然な形なのだと思い込んでいたのだ。ゆえにヨハンが異世界に飲み込まれ、このひとつの世界に彼がいなくなった不自然さは十代をたくさん傷つけた。十代はその時まで、自分の抱えていたヨハンへの気持ちは、好きとか愛しているとか、そんな大層なものではないと信じていた。いつも手の届くところにいて、一緒にいて楽しい仲間ぐらいにしか思っていないつもりだった。だが皮肉にも十代は彼自身が想定していなかった“ヨハンが世界から消える”という事実を以て、自らの気持ちの解釈が間違っていることにその時気付いたのだった。
「ヨハン」
「どした?」
十代はヨハンの服の袖をくい、と控えめに引いた。俯いた十代を心配するように、ヨハンは顔を覗きこんで尋ねた。
「俺さ、ヨハンのこと好きだ」
「え?」
驚いて少し開いたヨハンの唇に、自分のものを押し付けた。約3秒間、短いようでいて本人たちは長いと感じていたそれは互いの唇に相手の温もりと感触を残す。温かいな。血液が巡って全身にその熱を伝えているような気がする。
「好きなんだ」
十代が確信を持ってそう言ったのと、ヨハンがくすりと笑って十代を抱き締めたのはちょうど同じタイミングだった。
100316