そういうわけで、シロガネ山のてっぺんにいたのはただのレッドっていう少年だったわけだ。っつっても俺よりは年上らしいけど。俺が勝てなかったのは、レッドさんの方が年上だからだ。だがいくらポケモンバトルが強かろうが人間の少年であることには変わりない。
「そういや3年前にロケット団を壊滅させたのってレッドさんなんすか?」
そんな噂を聞いたんですけど、と付け加える。最盛期でサカキとかいうボスがいたらしいロケット団を倒すなんて相当の奴なんだなと思っていたけど、シロガネ山に籠るなんてある意味仙人のような生活を遅れるほどの強靭な精神力と天性のポケモンバトルのセンスを持ち合わせたレッドさんなら確かにやりかねない。そんな彼は顎に手を当ててうーんと唸っていた。
「…そんなことも、あったかな」
「そこは覚えときましょうよ…」
たった3年前の、しかも強烈に記憶に残るはずの事件さえ思い出せないなんてまるでおじいちゃんではないか。この人はこういう意味でも仙人っぽいなと思う。
「ああ、そういえばジョウトにもロケット団の残党がいたとか聞いたけど」
「それは俺が潰したんすよ!すごいでしょ」
思い出すとこそこかよとレッドさんに心の中でツッコミを入れつつ返答した。
「へえ、じゃあお揃いみたいだね」
いつも感情を表情に出さないのでわかりにくかったが、俺はこの時レッドさんが笑っているように見えた。そのふわりとした弱い笑みがほんの一瞬だけ、どきりと胸を温かくさせたのだ。
「そう、ですね」
レッドさんはあらゆる意味で侮れない人物である。
100316