氷点下の炎 | ナノ

もしチャンピオンがポケモンリーグの最奥で挑戦者を待ち続けるだけの職業だとしたら、自分は俗に言うニートや引きこもりに成り下がっていただろう。なぜなら、挑戦者が相当の実力を持ちあわせていない限り四天王との連戦にさえ勝ち越すのは困難だ。そのほんの一握りの挑戦者の為に待ち続けるなど、時間をもて余すにも程がある。幸いチャンピオンにはそれとは別にあらゆる業務が与えられており、前述のようにはならずに済んでいる。
ワタルはその別途の業務でタマムシシティに来ていた。理由はロケット団…ではなく(この町のゲームセンターの地下が彼らの根城になっていたのはもう3年も前のことだ)、タマムシジムの視察のためである。一時は男子禁制等の看板を掲げており、男性トレーナーにとっては非常にやりずらいジムであるということで、カントーの会議では数年前から何度も議題に上がっていた。そして、ジムリーダーのエリカは最近になって、ようやくその体制を改善する意向を示したらしく、その後のジムの様子を視察してほしいと頼まれたのだった。
ジムには男子禁制とはさすがに書かれていなかったが、ジムのトレーナーはやはり全員女子だった。それは男子禁制時代からのトレーナーばかりだからだと結論づけ、丁度挑戦者もいないということでエリカと話をすることができた。
彼女曰く、3年前にひとりの少年とバッジを賭けてバトルをした際に、彼のリザードンが吐き出した火炎放射の業火が、ジムの観葉植物や野放しにしていた草ポケモンたちに飛び火し、火災一歩手前の一大事になったことが『男子禁制』に拍車をかけたらしい。つまりは少年でさえこんなにも乱暴であるのだ、一切男など入れてはならないと。今では伝説のような存在となっている彼は、こんなところでも伝説を創っていたらしい。
そして、ここ数ヵ月前にひとりの少女が挑戦しにやって来たという。彼女の一番手はキュウコンで、もちろんエリカが草ポケモンの使い手であることが知られている以上、弱点を狙うのはトレーナーとして至極普通の判断である。実際彼女は何人もの炎ポケモンを繰り出してきたトレーナーを倒してきた(3年前の少年は例外だが)。しかもキュウコンは鬼火や催眠術などの補助技に長けるタイプであり、攻撃的とはいえないポケモンである。彼女は気にも留めずにモンジャラを先頭にバトルを続行したのだ。だからこそ、ショックが大きかったのだろう。催眠術で眠らされている間に悪巧みを使用したことによって、火力を最大限に上げられた大文字は、容赦なくモンジャラを襲い、ついでにジムも燃やした。そして彼女はこう思ったのだそうだ、性別は関係ないと。そういえばその少女は頻繁にリーグに挑戦しており、確実に四天王それぞれのポケモンの弱点をつき、ワタルが相手をすると冷凍ビームが火を吹くそうだ。もう何度目の殿堂入りになることやら。
とにかくそういった理由で、男女で差別をすることは止めたという。話終えて彼女はおかしな話ですよね、とどこか吹っ切れたような笑みを見せた。
「エリカさま、挑戦者です」とジムトレーナーが彼女を呼んだ。椅子から着物の襟を正した彼女は静かに席を立つ。

「よければご覧になっていきますか?」

微笑みは控えめだが自信に満ちていた。やはりこのような容貌の彼女でもひとりのジムリーダーにはちがいないのだ。

「…そうだな、そうしようか」

エリカの向かった方へ廊下を抜けると、彼女と対峙しているのは赤毛の少年だった。






100313








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