くずれないつみき | ナノ

カントー地方とジョウト地方、両方のリーグチャンピオンを勤めるのは大変だ。挑戦者はチャンピオンの手前、四天王戦で篩にかけられるためさほど多くないが、事務処理の仕事は単純計算で他のリーグチャンピオンの2倍あることになる。ワタルがチャンピオンになった当初は知りもしなかったが、地方からの情報をまとめ、報告書を作成するなど事務的な仕事もしなければならないというのだ。例えばロケット団等のポケモンを利用、被害者とする犯罪組織の動向や、ポケモンの異常発生、各ジムの取扱いポケモンの適正さ、そういう各地域から送られてくるデータをまとめたり、実際に視察を行ったりするのも業務である。
そして今もまた、彼はポケモンリーグのチャンピオンであるにもかかわらず、デスクワークに追われていた。各地からの報告を見て、気になる点を幾つか挙げていく。ここは詳しく確認する必要がありそうだなどと考えていると、この仕事の終わりの見えなさにため息が出た。
こんなことでは恋人にすら会えない。つやのある長い赤髪や、一見きつそうに見えるつり目気味の双眸が印象的な恋人は、今もどこかで修行をしているのだろう。付き合ってなんとなくわかったことは、彼は普段は本当に素直ではなくて、何かきっかけを与えてやらない限り自ら行動を起こすということができないことだった。しかしワタルはそれを欠点だとは思っていない。彼が照れながらも一生懸命意思を伝えようとするところは、その努力家な一面を覗かせているし、ワタルの勝手な解釈ではあるが、彼はワタルが忙しいことを理解した上で遠慮をしているのではないかと思っている。けれども、長い間会ってもいない、連絡もとっていないのは辛い。仕事が終わると真夜中なので、電話をかけるのは彼が寝ているかもしれないと思うとできなかった。
書類の束を揃えて机の隅に置くと、もう0時を過ぎて日付が変わっていた。仕事場から出て、リーグの施設内にある自室に向かう。すると、部屋の前に誰かしゃがんでいるのが見えた。疑問に思うと、足が速まる。そうではないか?という疑いが徐々に確信に変わっていく過程にどきどきと胸が高鳴った。

「シルバーくん」

声をかけても反応が無いのは、彼が眠っているからだった。どうやってここまで来たのだろうという疑問はあったが、それよりもワタルは彼を廊下で眠らせてしまうほどに待たせたことを後悔していた。彼を抱き上げて、こめかみにキスをし、ごめんねと呟いた。そのまま自室に入り、ベッドの上にゆっくりと彼をおろす。自分はソファで寝ようとワタルは踵を返そうとしたが、それを引き留めたのはシルバーだった。去り際に服の裾を引っ張られて振り返ると、目が覚めたシルバーにうっすらと開いた目で見つめられた。ワタルは困ったように微笑んで、ベッドのそばに膝をついた。

「ありがとうね、来てくれて」
「…迷惑、だったか?」
「ううん、今日仕事中ずっとシルバー君のこと考えてたし」

眠たいくせに目をまあるく見開いたシルバーがかわいくて、ワタルは彼の華奢な肩を抱いた。

「だからすごく嬉しい」
「お、れも、ワタルに会えて嬉しい、」

ワタルの背に少し震えて戸惑っているような両腕がまわされる。こんなふうに、してくれる1つ1つの行動が全てがかわいいんだよね、とワタルは笑みを浮かべた。

「だから、どこかに行かないで。一緒に寝てくれないか?」

シルバーの声は甘える猫の声よりも淡白で、少しの自信の無さが声色に表れているようだった。彼もまた一緒にいたいと望んでいる。それが嬉しくて、ワタルはベッドに乗りかかるとシルバーを押し倒すような形になった。

「やっぱ、眠いよね…?」

今度はワタルが自信なくシルバーに尋ねる番だった。シルバーは顔を赤くしてふいと顔を逸らす。いくら久しぶりだからとはいえ、互いに疲れているのに求めるなんて、どうかしてるのかもしれないなんて考えていると、ひとつの声が漏れたのが聞こえた。

「好きにしろ、へんた、」

最後を遮ったのは深いくちづけだった。






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