結び目 | ナノ


フスベシティに帰ってきたのは数ヵ月ぶりだった。ふらりとジムのあたりを歩いていると、道行く人が会釈をしてきたり、ポケモンを連れた子どもたちに囲まれたり、やはりチャンピオンとしての自分は故郷では他と較べて数段有名になってしまったのだなあと帰るたびに思う。そこで、ふと気になったのが池を挟んでジムの向かい側にある竜の穴だった。確か前に帰ってきたときに、そこでイブキと組んでゴールドくんと名前の知らない赤毛の少年(確か前にロケット団のアジトで会ったんだっけ)とタッグバトルをしたんだっけ。ゴールドくんを倒すのは、一度負けているとあって苦労するだろうと思ったけれど、その赤毛の少年が穴だと思ったんだ、そういえば。だってアジトで会ったときに彼勝負を挑まれたけれど、正直彼の戦いかたはポケモンに負担を掛けすぎたものだったから。けれどもその予想は見事に裏切られて俺たちは負けてしまったわけだ。だって自分のポケモンとも上手く意思の疎通が図れていなかった子が、こんな短期間でタッグバトルをこなすようになるなんて思ってもみなかったから。ポケモンと信頼関係を築くなんて、言葉では簡単に言えるけれど実際はそうじ
ゃない。一度破綻していれば尚更だ。彼はそれを取り戻すために一体いくらの努力をしたのだろう。
そこまで考えて、何をそこまであの少年に入れ込んでいるのだろうと疑問に思った。モンスターボールからハクリュウを出して池を渡る。気付けば竜の穴へと来ていた。
おそらく、俺は彼と会いたいらしい。数ヵ月前の驚くほどの成長を見せた彼が、次はどう変わっているのかが知りたいのだ。池の中にぽっかりと浮かぶ島に着いて、ハクリュウをモンスターボールの中に戻した。確か、少年たちと戦ったのはこのあたりだった。

「オーダイル、ハイドロポンプだ」

声が聞こえたあたりを見ると、彼の手持ちのオーダイルがいた。その後ろに、指示を出すあの少年がちらりと見えた。その直後、巨大な水の塊がオーダイルの周りから沸き上がり、それはまるでいくつもの間欠泉が吹き出したようだった。あたりは水飛沫に包まれ、俺もその飛沫をかぶってしまったらしく、じとり、と服が重くなった。

「へぇ、なかなかすごいじゃないか」

飛沫が収まったタイミングで、そう声をかけると、まさか人がいたとは思わなかったのだろう、驚いたようにその少年は此方へ振り返った。

「お前、なんでここに…」
「フスベシティは俺の故郷だからね。それにここもドラゴン使いにとっては重要な場所だから」

睨む少年の視線が痛かった。確かに2度会ったときに愛想も無ければ意地っ張りときた、なんて思っていたけれど。お前なんて呼ばれるのも、一応俺の方が年上でしかもチャンピオンなのになと思う。それだけじゃない気もするけれど。なんだか気に食わないから、ちょっとぐらいからかってもいいかな。

「―っていうのもあったんだけど、一番の理由は君が来てるかもしれないなって思ったからだよ」
「はあ?」
「だから君に会いにきたってこと」

意味がわからないというように暫く見つめられたあとに、彼の頬が赤く染まっていくのが見えた。俺を睨んでいた瞳はおろおろと下方をさまよっていて、不覚にもその反応に釘づけになっている俺がいた。からかうだけの筈だったのに。

「意味わかんねーし、帰れよっ」

真っ赤な顔を伏せていう少年は、本当に素直ではないのだなと思う。けれども、素直じゃなさすぎると逆にわかりやすいのかもしれない。ここにいたい気持ちもあったが、オーダイルにぎろりと睨まれるとここから立ち去る他ない気がしてくる。

「そうかい、今日のところは帰るよ。あまり無理をしないようにね」
「余計なお世話だ」
「あ、最後に、名前を教えてくれるかい?」

少年は後ろを向いた。答えてくれないのかと肩を落としそうになったとき、小さな声で「シルバー」と彼が呟いたのを聞いた。

「シルバーくん、また来るよ」

そう言って俺は竜の穴を後にした。そのとき彼はどんな表情をしていたのだろうと、俺はそればかりを考えていた。







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