かわいいのはどっち | ナノ


ヨハンがはるばる十代の部屋を訪ねて部屋をノックしても、中から十代の返事は返ってこなかった。試しにノブを回してみると、鍵はかかっていなかったようで簡単にドアは開いた。合鍵を持っているわけもないが、日頃からヨハンと十代は共に部屋を往き来しあう仲だ。なのでヨハンも無断で十代の部屋に入ることを特に気にもせず、そこに足を踏み入れた。
見ると、十代は部屋を留守にしていたわけではなかった。彼は机の上に広げたノートや教科書の上に突っ伏して、すう、と小さく寝息を立てて寝ていた。おそらく、珍しくアカデミアの宿題に取り組んでいたら、眠くなってしまったのだろう。
ヨハンはその机に頬杖をついて、丁度こちらを向いて寝ている十代の寝顔を眺めた。きれいな顔をしていると思う。言えば怒られそうなので言わないがどちらかというと女顔であるし、今は瞑られている大きな目は同性から見てもかわいいという印象を受ける。
普段から一緒にいても、こんなに近くで十代の顔を見ることはなかったな、とヨハンはさらに顔を近づけた。少し開いた唇を何秒か見つめてしまったのが恥ずかしくて、一度目線を逸らした。
視線をまた十代の顔に戻した後に気になったのが頬で、ぷにぷにしてそうだなあなんて思いながら、人差し指で緩く突っついて見る。十代の反応が無いのをいいことに、ヨハンはそれを何度も繰り返した。 本当に女の子みたいにやわらかくて、段々指でぐりぐりと押さえたりつねったりエスカレートしていくと、ついに十代はううん、と唸った。ヨハンはまずい、と急いで手を離したが既に遅く、十代は目を開いて突っ伏した身体を起こすと、真っ直ぐにヨハンを見た。

「ヨハン、俺の顔で遊んでただろ」

十代の声は寝起きにしてははっきりしすぎていた。そして、ヨハンが十代の頬を弄っていたことを十代が知っているということ、また、十代がにやりと片方の口角を上げて見せたことから、ヨハンは十代がそのとき既に起きていたのだということに気付いた。

「え、いつから…?」
「実はドアが開いた音で起きたんだけどさー、ヨハンがどうすんのか気になって」

いたずらっぽく笑う十代を見て、ヨハンはかあ、と頬が熱くなるのを感じた。口にしていない気持ちはバレることはないとわかっているのに、十代に何もかもを見透かされているような気がしたのだ。

「あれだろ、俺のことかわいいとか思ってほっぺた弄ったりしてたんだろー」
「な、」

なんでわかったんだと言いそうになった口をつぐんで、図星を突かれてたことに驚いたヨハンはさらに顔を赤く染めた。

「薄目で見てたからなーなんとなくわかったぜ!でも俺は…」

今度はヨハンの頬に十代の手が添えられて、指がつう、と輪郭を滑った。そのぎりぎり触れられている感触と十代が顔を近づけたので心臓がばくばくと鳴っているのがわかる。

「そうやってどきどきしてるヨハンの方がよっぽどかわいいと思うけどな」

どきん、と大きく跳ねた心臓や、寝顔のあどけなさとは正反対の十代の微笑や、いつもより幾分低い声で紡がれた言葉に堪えられなくなったヨハンは、顔を真っ赤に染めてまるで風が通りすぎるような速さで部屋を出ていった。打ち続ける心臓の上に手を当てて、まさか十代をかっこいいと思うなんて、と恥ずかしいやら驚いたやらで泣きそうになった。





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