臆病者になるとき | ナノ


「よーはーんっ」
「うわ、」

十代に半ば体当たりをされるように抱きつかれたヨハンは、ばらばらと手の中にあったカードをこぼし、その上にうつ伏せに倒れこんだ。びたん、と掌や腕を床に打ち付ける、聴いてしまっただけで肌が腫れ上がってしまいそうな音が部屋に響いた。しかも押し潰されるように十代が覆い被さっていて、うう、と押し出されるように声が出た。それを耳にした十代はようやくヨハンが苦しがっていることに気が付いたようで、ヨハンの上から退き、うつ伏せている彼の顔を大きな瞳で覗きこんだ。

「ヨハン、大丈夫かー?」
「大丈夫…じゃない…」

ゆっくり起き上がったヨハンの掌は真っ赤に腫れていて、他にも打ち付けたらしい肘や十代が乗っていたせいで痛めたらしい腰をさすっていた。

「ご、ごめんヨハン!俺こんなつもりじゃ…」

痛そうに顔を歪めるヨハンを目の当たりにすると、予想よりも大きすぎる被害が出たことに驚いて、上手く回らない舌でヨハンに謝った。じわじわと十代の目尻に溜まる涙を見たヨハンは、あわてて十代の気持ちを軽くしようと口を開いた。

「いや、そういうつもりじゃないことはわかってるぜ!」
「ごめん…」

ヨハンのことを呼んだ当初の十代はどこへやらで、十代はしゅん、と脚を抱えて小さく座り込んでしまった。自分はヨハンに嫌な思いをさせてしまったのだと考えながら、辺りに散らばったカードを見ると、十代は抱えこんだ膝に顔を埋めた。

「落ち込むなって、じゅうだーい」

ヨハンは励ますように十代の頭を撫でたが、彼は顔をあげなかった。

「俺は大丈夫だから、な?」

十代に向かい合うようにして肩を抱いた。小さな子どもをあやすようにぽんぽんと背中を軽く叩くと、十代はヨハンの胸元に入り込むように抱きつき返した。しがみつくようにヨハンの着ているシャツを掴む十代は、胸元に顔をうずめてすがるようにも見えた。ヨハンはまた十代の背に腕を回すと、ふるふるとそれが小さく震えているのがわかった。

「ヨハン、好き、嫌いにならないで」

ヨハンの鼓膜を震わせた声はとても小さくて弱かったけれど、とても大きな意思が込められているようだった。耳許にかかる髪の束を掬って、開いた唇をそこに近づけた。

「ずっと十代が好きに決まってる」

本当か?と問いたそうに顔を上げた十代にヨハンはふわりと笑って見せて、しょっぱい瞼にキスをした。





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