さみしいやまい | ナノ
自分でいうのもなんだが、俺は自分のことを底無しに明るい奴だと思っていた。行動力だってあるし、困難にぶち当たってもそれに気付かずにいつの間にか乗り越えていたことだってある。なのに、あいつ、ヨハンのことになると、どうもいつもの調子でいられなくなるんだ。

ふわりと瞼が持ち上がった。カーテンからゆるく陽光が差し込む明朝は、色で例えるならば藤色のように淡かった。身体を起こして隣を見るとヨハンが寝ている。すう、と息を吐いた彼が暗い布団の中に吸い込まれていってしまわないか、という非現実な不安がやわやわと脳を支配した。溶けそうに淡い寝室は、輪郭をぼやけさせて、俺たちの存在をあやふやにしているようだった。消えてしまいそうなヨハンは、俺の想いには気付かずに寝息をたて続けている。静かすぎる朝に、俺の落とした涙が滲んで広がった。

「…じゅーだい、」
「、ヨハ…」

起きていたのか?と問おうとしたが、いきなり手首を引かれたのにおどろいて声が出なかった。その先はヨハンの腕の中で、ちょうど俺の顔がヨハンの胸に押し付けられているゃうな状態だ。だから、涙でヨハンの着ている寝間着は濡れてしまっただろう。それでも涙はとまらないどころか、抱き締められたことによって抑えられないぐらいに、胸に詰まっていたものが溢れだしてしまった。

「う、ああぁ、」

片方は背中をさすって、もう片方は頭を撫でてくれていた。全部出しちまえよな、とヨハンが耳元で言うから、いよいよ声も抑えることさえ止めてしまった。喉の鳴る音とか、鼻を啜る音とか、すごくみっともないと思ったけど、声を出すたびに俺のことを追いかけてくる恐怖が吹き飛ばされていくように感じた。

「俺はちゃんとここにいるからな」
「ひっ…く、うんっ」
「もう消えたりなんかしないから」
「う、ん」
「じゃあもう大丈夫だなっ」

しがみついていた手を緩めて、ヨハンを見た。するとヨハンは俺の大好きな笑顔を向けて、俺の涙でべとべとの顔を頬を包むようにして親指で拭ってくれた。

「あーあ、十代朝から鼻真っ赤」
「うそ、どうしよ…」
「うーん泣いてる十代も勿論かわいいけど、ヤってるときだけで十分だなー」
「あーもう何言ってんだよ!ばか!」

ヨハンの頭をぼふんと掌で叩くと、はははっ、と笑われたので、それを見ていたら俺も笑顔になっていた。でも、今度はそれを見たヨハンが笑うのを止めて固まってしまった。

「ヨハン?」
「ああもうやっぱその顔が一番好き!」

またいきなりきつく抱き締められて、好きだと言ってキスしてくるヨハンに小さくありがとうと呟いた。





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テーマ「人外ファンタジー」
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