途中/今鳴 | ナノ

ペダル/今鳴


鳴子は小さい。膝の上に乗せても痛くないし、簡単に持ち上げることもできる。座ったまま抱き寄せれば頭にあごが乗るコンパクトサイズである、ということも今泉はつい2、3日前に知った。それからなんとなく懐に鳴子がいないと、そのぽっかりと空いてしまった空間が気になってしかたないのだ。
ひとりもくもくとテレビゲームに集中している鳴子。呼んでみたところで素直に手を止めて、此方に来てくれるか自信はなかった。付き合って日は浅いし、喧嘩ばかりしていたのにいきなり恋人だとか考えると、未だに気まずいと思ってしまう。だから鳴子もあまり今泉を見ようとせず、結果として一人用のRPGに行きついたのだろう。
振り向かせる、という意味では告白と同義なのではないか。たった一言名前を呼べばいいこの状況に、今泉は重圧を感じていた。

「鳴子」

その声は特に上擦ったりはしていなかったものの、BGMとSEの音がする室内ではそれに馴染まず浮いて聞こえた。そして案外あっさりと液晶から今泉へ、鳴子の注目が移ったのだった。

「なんや?」

抱きしめたいというのが本音ではあったが、言ってしまうと身構えてしまって来ない可能性がある。ただそれだけと言うことはできないので、今泉は何も言わずに小さく手招きをした。鳴子はむすう、と口を噤んだが、振り向いた際にポーズするのを忘れていて、今の数秒の間に画面上の薄っぺらい主人公は死んでいたことに気づく。さらに唇を曲げるが、コンティニューをあきらめてあっさりコントローラーを手放すと、渋々といった感じで足を摺りながらも今泉のもとへ向かったのだった。
そばまでやってきた鳴子に対し、今泉は腕を広げるのだが…。鳴子は固まって考えてしまう。ここで自ら抱きついたら今泉はどう思うのだろう。好きだと思われるのも癪に障る。でも付き合っているのだからとか、嫌いじゃないとか、頭が勝手に回転して飛び込むための口実をつくろうとしていた。だが、そうやって鳴子が葛藤しているのに痺れを切らした今泉は、強引に鳴子の手を掴んで引いたのだ。傾いた身体が倒れてくるのを危なげなく受け止める。やはり軽いせいか痛みも衝撃もほとんど無かった。

「お、おい、危ないやろ!」
「ごめん、ぎゅってしていいか?」
「もうしとるやんけ…」

鳴子は既にのめりこむように今泉の腕に抱き寄せられていた。ぬくさとか人肌を感じると人間は安心するはずなのだが、息遣いが聞こえる距離というのはどうにも慣れない。目の行き場に困った鳴子は挙動不審になって左右に目線を散らしていたが、恥ずかしくなる一方なので、顔をうずめて見るのをやめた。そこでちょうどいい場所を探すように、もぞもぞと今泉の胸のあたりに頬をすりよせる。もちろん今泉から鳴子の表情はわからないし、下を見れば赤くツンツンした髪が動いているだけなのだが。

「あーくそ、」
「あ?なんか気に入らんことでも、」

いきなり人を呼びつけておいて悪態をつくとはなんだ、と鳴子は思わず顔をあげた。今泉は俯いていたので覗きこもうとした瞬間、背中に回っていたはずの手が頭を抑えつけたのだ。弾むように勢いづいて、唇がひっつく。そのまままだ押し付けられて、息を吸おうと口を開こうとすれば、先ににゅるりとしたものが入ってきた。それは勝手に口内を這いずり回るから、ちょっとしたパニックである。

「かわいいんだよ、」
「ふ、ぁ……んん」

酸素が足りなくてうまく声が出ず、頭もうまく回らない。実際鳴子は一瞬離れた今泉の唇が何と呟いたのかよくわからなかった。







120305



















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -