ブルーム/雪燐 | ナノ

aoex/雪燐



ドアが開いて、廊下の冷たい空気と共に入ってきたのはコンビニから帰ってきた燐だった。足だけで踏みつけるようにして脱ぎ捨てた靴は転がって裏返り、その後ろで放りだしたままのドアがばたんと音を立てて閉まった。さらにばたばたと床を鳴らしてやってくる音に、雪男はようやくシャープペンシルを置いて振り返ったのだった。

「にいさんおかえ、」

そう言い終わらないうちに、燐はその勉強机に腰掛けた背中へと、勢いよく飛びついた。雪男が言葉を無くすのに気にも留めず、ぐるりと広い肩幅に腕を回してしがみついた。

「…にいさん?」
「さむい」

雪男はぶるぶると震える振動が、ぴったりとくっついた燐の身体から伝わってくるのを感じた。外は都会では珍しくちらちら雪が舞っていて、今年一番の冷え込みだそうだ。そんな外気に先ほどまでさらされっぱなしだった燐の身体は布越しでもわかるくらいに冷たい。いつも子ども体温だとからかう燐の手のひらの温度も、今ばかりは真っ赤になって冷え切っている。
その手を握るとあったけえ…と燐が涙ながらに言うので、雪男は握る角度を変えたりさすったりして温めてやることにした。

「手袋わすれたの?」
「いらねーかなと思って」
「朝、天気予報見たでしょ」
「いいじゃん。雪男があっためてくれるだろー」

ずぶずぶと沈むように脱力して、燐は雪男の首筋に顔をうずめる。頬ずりして甘えるような仕草は、動物のこどもが母親にするのに似ていた。肩から首にかけてのくすぐったさに、雪男は二、三まばたきをする。甘え下手というか、燐の意地っ張りで恥ずかしがりな性格上、抱き寄せるのもキスをするのも常に雪男からだったのだ。嬉しいという気持ちより驚きが先行してしまってもしかたがない。ただ、それも一瞬の感情だったようで、雪男はくすりと笑う。

「今日あまえただね」
「そういうわけじゃ、」
「兄さんの方から抱き付いてくるなんて珍しいし」
「それは寒いから!」
「じゃあもっとあっためてあげるね」
「うわっ」

ね、と雪男は笑って立ち上がる。燐がバランスを崩して転びそうになったので、今度は正面から抱き留めた。燐は顔をそらしたけれど、頬が真っ赤に火照っているのは見逃さなかった。それに、先ほどとうって変わって抱き心地もぽかぽかしている。気持ちが顔に出るとはいうが、顔に収まらず身体にまで現れているらしい。

「ってもう暖かそうだけど」
「う…まださむいし」

燐はぎゅっと雪男の服を握りしめる。それは雪男をこの場につなぎ止めようとしているようだった。あくまで燐は寒いと主張するだけで、その本心を素直に言葉にすることは、燐にとってとても難しいことであるらしい。しかし、彼の表情や仕草を見れば行動の単純さや隠し事のできない性格故に、それを伺い知るのは容易だった。弟の雪男であれば尚更で、放すまいとしがみつく燐を安心させるように両手を背中に回してやった。本心を言い当てて、兄を恥ずかしがらせるという選択もできたが、なんとなく今日は兄を単純に甘やかしたかったのだ。燐は雪男の首筋で心地良さそうにまぶたを下ろす。そこだけはまるで春がきたみたいに暖かかった。









120101


















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -