この瞳はあなたしか映さない/京天 | ナノ

inzmGO/京天




「松風」
「ん?」

身を屈めて至近距離で松風の顔をのぞき込むと、大きな瞳がぱちんと瞬いた。さらに頬に手を伸ばすと、今度はぎゅうとまぶたにしわが寄るくらいに目を瞑る。身体をびく、と震わせたあたり、変な想像でもしているのだろう。だが俺はいつもそんなことばかり考えているわけではない。今だってキスする気は微塵もなかったし、こんなかわいい反応をされるとも思わなかったのだ。そんな小動物みたいな彼を抱きしめて口づけて撫で回したい一方で、震える睫毛やギュッと結んだ唇を見ていたら、少し意地悪してしまいたくなるのも事実である。だから松風の期待を裏切って、当初の目的どおり、真っ赤になった頬の上に貼りついた泥を親指で拭ってやった。

「とれた」
「え、」

松風は恐る恐るまぶたをあげたかと思えばきょとんとして俺を見た。俺があっさりと手と引いたことが余程予想外だったのか。にやける口元を隠せないまま、松風をからかいにかかることにした。

「土ついてたから。もしかして何か期待してたのか?」
「…し、してない!」

否定する語気の強さに比例して肌が真っ赤に火照っていくのが目に見えて、ほんとうに正直で可愛らしい。

「ああもう剣城、笑うな!」
「フフッ…わるい」

なんて言われても口元が綻ぶのを耐えられるはずなんてない。風船みたいに頬を膨らませて本人は怒っているつもりらしいが、頬は赤いし上目遣いだし目は潤んでいるしで台無しだ。ただ、こういう表情をされるとやっぱりどうにかしたくなる。というか意地悪する方にも相当の負担がかかっているわけで、これ以上の我慢はできないといった方が正しいのかもしれない。
唐突に唇を合わせれば、魚の息継ぎみたく松風の口からぷはぁと勢いよく空気が漏れる。その萎んだ口内に舌を割り入れると、艶っぽくうめいて静かにまぶたを閉じた。








111124














「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -