知りたいと思うの/荒北と真波 | ナノ

ペダル/荒北と真波



底なし沼に光が届いたような、むしろ邪魔してくるほどの光に睡魔も負けて薄く目を開けると、視界はフィルターをかけたように橙色をしていた。腕に埋めていた顔を少しだけ上げて周りを見渡す。すっかり赤くなった陽の光が射した教室は、終礼が終わってから1時間以上は経った姿ではなかろうか。

「チッ、起きたか」
「ん?」

降ってきたのはうっすらと聞き覚えのある舌打ちだった。今できる最大限のスピードで、のそりと上半身を持ち上げ、その粘着質な声の降ってきた方へ顔を上げる。半信半疑だったものの、やっぱり荒北さんだった。けれども、どうしておれの教室にいるのだろうか。たぶんおれは少なくとも授業中から寝ていただろうし、呼ばれていた覚えもない。ただ、首を捻っていても答えは出ないので直接聞いてみることにする。

「…なんでこんなところにいるの?」
「ハァ?お前バカか。福チャンに探してこいって言われたんだよ。とっくに部活始まってんぞ」
「あ」

寝ている間に脳みそ盗まれたのではないかってくらい、すっかり忘れてしまっていたのだ。いつもみたいに何分遅刻どころでは済まないなあ。黒板の横に時計を見つけて、祈りながら今が何時か確認したけれど、予想通りの時刻だった。残念なことに眠ってしまっていた時間は取り戻せないらしい。覆水盆に返らずというやつだ。そりゃあもう先輩を前に苦笑いするしかない。

「すみませんえへへ」
「こんな奴がレギュラーなんて信じらんねェ…」

大きい口が大袈裟なため息を吐く。怒られるかなあ、さすがに。東堂さんや新開さんに怒鳴っているのをよく見るし、見た目も吊り目だもの。つまり、総合すると怖そうで、びびって肩をすくめてしまった。ただ、こう身構えたとしても言葉というものはストレートに刺さるものなので、あまり意味はないんだけれど。とにかく覚悟だけはしているのに、荒北さんは未だ一向に怒らない。なんと焦らし上手なことだ。ゆっくりと細目で荒北さんを確認すると、ようやく不機嫌そうに口を開いたところだった。

「つーかお前起きちまったから、部活戻んねえと…だっりィな…」

今度はおれがぽかんと口を開ける番なわけで。心配して損しちゃった。唇を尖らせて悪態をつく姿からは先輩としてレギュラーとしての威厳は感じられない。つまりお互い様ということだろうか。どうにも可笑しくて笑ってしまう。

「荒北さん人のこと言えないじゃん」
「あァ?オレはいいの」
「しかもおれが寝てるからって理由になってないし」
「探してるってことにすればいいだろオ」
「じゃあかくれんぼでもする?」

口から滑るように出てきた提案に、荒北さんは言葉を詰まらせて笑い始めた。おれもつられて笑い出そうとした瞬間に、頭に手刀が降って落ちてくるなんて予想できるはずがない。

「いたいっ」
「調子乗ってんなバァカ」

しかもそれはじいんとした痛みの残るほどの強さだった。ちょっとだけ涙も出た。おれが頭を抱えるのを見て、荒北さんはさらにケラケラと笑い続けている。確かにまずい発言ではあったけど、これではなんだか遊ばれているみたいだ。それは少し気にくわないので唇を突き出して怒ってる感じをだしてじっと見つめてみる。けれどそれに気にもとめないで、荒北さんはおれの手首を掴んで、座席から引っ張り出した。

「オラ、行くぞ真波」








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