毒されている/今鳴 | ナノ

ペダル/今鳴



夕日はもう地球の裏側に回った後で、部活後の帰り道は街灯のみが道を照らす、そこそこの暗闇だった。足を踏み出すたびにざくりと音をたてて落ち葉が下敷きになる。それが楽しくて落ち葉を蹴り上げると、不意に吹いた北風がそれをころころと転がしてさらっていった。

「うわさっむ、」

風にのって冷たい空気が制服を通して肌に触る。反射的に抱えるようにして腕組みすると、冷たいのが少しましになった。ところが、隣を見ると今泉も同じ格好をしていることに気づく。ちょうど今泉も鳴子を見たので、彼もそう認識したに違いない。互いにわざとらしく、苦い薬を口にしたときのようにうええ、と唇を曲げた。

「おい真似すんなや」
「いや、お前だろ」

こういった偶発的に同じ行動をとってしまうくせは互いに治らないらしい。知り合った当初からこの傾向はあり、よく諍いを起こしていたが、今はもう見切りをつけて言い争いにまで発展することは少なくなった。今回もふたりがため息を吐いて終了。

「あーなんでお前と帰ってんのやろなー」
「付き合ってるからだな」

今泉が案外あっさりと言ってのけたことに、鳴子は少し驚いた。つきあっていることはわかっている。けれど、今泉に言われて曖昧になっていたそれを再確認させられた。いつも頭の中で膨張してふわふわしているのだ。意味を知ろうと掴もうとしてもまるで雲のようで水蒸気みたくつかめない。

「なんか痒いわ」

そこで、今の状況−−付き合ってる2人が下校を共にする、ということについて改めて考えると、そわそわと落ち着かない気持ちになった。恋人同士が二人きりで歩く帰り道。自分にはえんもゆかりもないものとばかり思っていたが、いつからかそんなロマンチックな風景を構成する一部となっていたらしい。
ゆらゆらと光る街灯は、いびつではあるがスポットライトのように丸く地面を切り取っていた。ちょうどそこにさしかかったとき、今泉が急に足を止めたかと思えば、組んでいたはずの右手がちょうど繋ぎやすい位置に現れたのだ。

「左手、貸せよ」

鳴子は驚いてその掌から今泉に目線を移した。今泉はほら、と有無を言わさぬように掌を鳴子の目の前までもっていく。まるで舞台の上にでも立っているようだ。鳴子は逃げ場もないので緊張で震える手を差し出すしかなかった。観客なんていないことはわかっているけれど、これが平常でいられるはずがない。寸前で躊躇していると、今泉は痺れを切らしてその手を先に握りこんでしまった。

(こんなん、痒いどころちゃうわ)

胸に手を当てなくても、心拍数が上がっているのがわかる。今泉は、こういうことしたかったのか、とか、まるで恋人同士だ、とか考えると余計に前を見ることができない。言葉にする余裕も当然にないので、開きそうになる口を噤むしかなかった。

「なに緊張してんだよバカ」
「う、うっさい!こっち見んな!」
「はいはい」

結局鳴子は無口を決め込んで、今泉もそれについて何も言わなくなった。それから鳴子の家に着くまで一言も言葉を交わさなかったけれど、それまで繋いだ手はそのままになっていた。







111030









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