素顔/今鳴 | ナノ

ペダル/今鳴



「うわ、」

背後からいきなり抱え上げられて、両足がぶらぶらと宙に浮いた。今泉がまるで赤子を抱き上げるように、鳴子の身体を軽々と持ち上げたのだ。

「軽っ」

身長や体格について、男子としてもスポーツマンとしても気になるのが普通だ。特に鳴子は小柄で、そのことを散々言われてきた。なので、今泉が鳴子を傷つけるつもりがなかったとしても、それは嫌味にしか聞こえない。しかも鳴子は相手が今泉だと特に喧嘩腰で返す。そこから口喧嘩に発展するのが常だが、今は彼にそんな余裕はないようだった。

「な、ちょっ下ろせって」

だだをこねる子どものように手足をばたばたさせて、今泉の腕から逃れようとする。鳴子にとってこの密着した状況が何よりも問題であった。なぜなら恥ずかしいから。ただ、本人はそれを認識できないほどに動揺している。腕を解こうとしない今泉を半べそで睨むと、ふっと力が抜けてようやく地に足を着けることができた。

「ぅわ、」

ところが安心したのもつかの間、今泉は鳴子の肩を掴むとくるりとその身体を回転させた。今度は正面から抱き寄せられてしまう。

「鳴子かわいい」

耳元で囁かれると、もうわけがわからなくなってしまった。真っ赤にした顔とくっつき合っている身体が火照って仕方がない。

「か、かわいくな、」

せっかく反論しようとして開いた唇に、今泉は食べるようにくちづける。鳴子がびくりと震えて、ぎゅうと目を閉じた。身体を硬くして身動きできないのをいいことに中をかき回す。くち、という音に反応して鳴子がふるふると小さく首を振って、今泉のシャツをくしゃぐしゃに握る。ようやく解放されて呂律の回らない舌で言う。

「お前、今日おかしいやろっ…」
「ああ、おかしいのかもしれない」

恋人らしいことをすることに免疫がなくて、手を繋いで、たまにキスするくらいしかしなかったから、べたべたとした甘ったるい雰囲気は鳴子を混乱させていた。

「嫌か?」
「そんなん言っとらんわ!」

今泉が目を丸くする。思わず強く否定してしまったけれど、これではもっとしたいと言っているようなものではないか。それに気づいた鳴子は焦って言い訳を探すが、空回りする思考ではすぐに思いつくはずもない。違うそういう意味じゃなくてなどと言葉を並べたてるものの、その次が出てこなくて、ごまかすことすらできずにいた。その様子が可笑しくて今泉はふふ、と息を吐いて小さく笑う。

「それはよかった」

そう言って鳴子の頭を撫でるときの表情はとても愛おしそうに浮かんだ、思わず見惚れてしまうほどの微笑だった。







111024










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