校内散歩/真荒 | ナノ

ペダル/真荒



「真波くーん」

真波はその黄色い声のするほうへ振り向き、廊下に顔を出して手を振る女子に笑いかける。すると彼女の頬はみるみるうちに赤くなって、2、3人の取り巻きたちときゃあきゃあ騒ぎ始める。荒北にとって、先程真波と校内をぶらつき始めてから、幾度目かの光景であった。荒北はその女子たちから目線を外して、へらへらと笑っている真波を見る。

「おまえ人気だなァ」
「なにがー?」
「女子に」

流すようにして先ほどの子たちを見ると、真波はああ、と適当に相槌をうった。

「でも興味ないよー」

もしこの一言を女の子たちが聞いていたら、彼女たちは相当悲しむのではないか。真波はにこにこ笑ってさらりとえげつないことを言う。真波は一見優男のようだけれども、何の悪気もなく人を傷付けるようなことを言うことが偶にある。つまり素直なのだ。自分の気持ちに嘘をつかない。聞こえはよいが、言い換えれば自己中心的というのだと荒北は思う。
外面は良いからよくまるで天使だと形容されたりしているらしいが、慈悲の欠片もなく、しかも真波にとってあのあたりの女子はどうでもいい存在らしい。

「むくわれねぇな」
「俺がね」
「ハァ?」
「振り向いてくれるのは一人でいいんだ」

真波のゆるく笑っていた口元が引き締まる。真剣な面持ちで、今までぼんやりて歩く先を向いていた視線を荒北のほうへ移した。表情や雰囲気が彼の本気を物語っている。
真波にも、一応真摯に想いを寄せる相手がいるのか。荒北には思い当たる人物がいて、それは確か真波の幼なじみだったような。一度彼女と真波が話している姿を見たことがあったが、間違いなくその子も真波に惚れていたように思う。荒北は無意識に顔をしかめていた。少し突き出した唇を開いて真波に問いかける。

「あの委員長か?それなら…」
「はあ、荒北さんはずれー」

ぶっぶーと真波は両手をばってんにして言った。腹の立つリアクションだと思ったが、彼女ではないということの方が衝撃的であった。一体誰のことが好きなのだろう。荒北はますます眉をひそめる。

「じゃあ誰だよ…」
「え、もしかして気になるの?」

そう指摘されて、いつの間にか夢中になっていたことに荒北は気づいた。つまり図星である。自分でも気づかなかったことを真波に言い当てられて動揺する。んなことはねェ、と小さく言うのが荒北には精一杯で、真波は目を丸くしてそんな荒北を見ていた。

「え、え、まあ気になってくれたほうが嬉しいんだけどね」

何故喜ばれたのか荒北は理解できずに、向けられたふにゃりとした笑顔に対して怪訝な顔つきで望んだ。真波は3秒ほど笑顔を貼り付けたまま固まって、困ったように首を傾げた。

「なんで?」
「…荒北さんって鈍感?」

先程の動揺は、あくまで真波の想い人は誰かということに執着している自分に気づかされたが故のものであって、それ以上のことには思い至らず、真波の含みを持たせた言動の真意も通じることはなかった。

「あーもうめんどくせェわ」

真波の言わんとすることが回りくどくてわからない。理解することをあきらめて苛々する気持ちのままに、荒北は真波を置き去りに早足で歩き出す。だがそれを真波は咄嗟に荒北のシャツの裾を掴んで阻止した。

「わー、まって!」
「あ?」
「好きです荒北さん!付き合ってください」

振り返った荒北は変わらぬ表情で真波を見下ろしていたが、さほど気にしていなかった昼休みの廊下の喧騒が耳に入ると同時に、今まで真波が言う意味をようやく理解することができた。と同時に、周辺にいた数人の生徒が、固まったように自分たちを見ていることにも気づいた。そして、それを気にすることなく照れ笑いするマイペースさが憎くて、真波にげんこつを落とした。

「痛いっ」
「バカだお前。ぜってェバカ」
「そうかも…」

昼休みの廊下で告白することも、選び放題なのに何故か男である自分を選んだことも、バカだなと荒北は思う。だがそれよりも馬鹿なのは無意識に真波を好きだった自分の方だとため息をついた。

「…付き合ってやらァ」

それを聞いて、わかってた、というように笑う真波に腹が立ったので、荒北はもう一発げんこつをくらわせた。









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