くっつきむし/今鳴 | ナノ

ペダル/今鳴



鳴子がベッドに飛び込んで、ぼすんと布団に落ちると共に、弾力性のあるスプリングが跳ねた。

「ベッドふかふかー!」

枕に顔を埋めると、ふわふわした感触と今泉のにおいがした。しばらく枕をとおして空気を吸い込んでいると、頭もぼうっとして意識も浮いているように感じる。しかし、他人の枕にしがみついていることや、そのにおいを嗅いで心地よさを感じていることも、冷静に考えれば変態みたいではないか。心地よさの中、微かに残った意識でそう思いたった鳴子は、我に返ったように起き上がる。すると、ちょうど今泉が部屋に戻ってきて、間一髪、先程の姿は見られずに済んだようで、一息ついた。

「もう眠いわーはよ寝よー」
「はいはい」

電灯が消えて、室内は物の輪郭が微かに見えるくらいに薄暗くなった。ころんと身体を横たえた鳴子の隣に、更に今泉が乗っかって、二人分の体重を抱えたベッドが少し沈む。

「え、お前もベッドで寝んの?」
「俺のベッドだ、当たり前だろ」

まったく思ってもみなかったと鳴子は目を丸くするが、よく考えればこの室内にはこの今泉のベッドしか寝床はない。別々の部屋で寝るのは味気がないとはいえ、シングルベッドに男子2人が寝転ぶのは、鳴子が小柄だとしても窮屈であった。
その近さ故鳴子は迂闊に身動きをとれなかったが、どうしても気になって横を向くと、ほんの十数センチさきの今泉と目が合った。鳴子はこんな沈黙が苦手で、言葉を探すように唇かはくはくと動く。

「めっちゃ狭いやん!ワイ絶対今泉のこと蹴落とすわー」
「はあ?」
「俺寝相悪いらしいしなあ。こないだ言ってたやん」

鳴子は確かに合宿のときの宿屋でも隣の布団にまで転がっていって、今泉に乗っかったり何度も蹴りとばしていた。今泉は一度朝に注意をしたのだが、それで治るはずもなく、合宿中ずっと悩まされたのだった。今泉は苦い顔をして、しかたないとため息をついた。もしかして、別のところで寝ることにしたのか、と鳴子は思索したが、同時にそれは寂しいと思った。今泉の隣は定位置で、風呂上がりの今泉のにおいが好きだった。

「じゃあ暴れないように押さえておかないとな」

苦し紛れに放った一言のせいで、と後悔した矢先、今泉の腕がやさしく鳴子の背にまわって緩くしめつけた。
枕を抱きしめたときよりもそれはそれはずっと恥ずかしくて、そのせいで息が止まりかけているからにおいどころではない。

「いまいずみ、」
「おやすみ」

続く言葉を遮るように鳴子をかき抱いて、今泉は目を閉じた。密着して、二人分の心臓がお互いの身体に響き合っているようだ。無理やり瞼を下ろした彼らが眠りにつくのはまだ先のことである。







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