「…君…誰…?」

そう尋ねてきたのはエースでも弟のルフィでもなくて知らない金髪の男の子だった。


×

チカチカと揺れる眩しさからぼんやりとした頭で目を覚ますと目の前には見慣れない壁があった。数秒した後そこから斜め上に視線をずらすと見慣れない窓。こんなとこに窓なんか作るなよ全く、と嫌がおうにもカーテンの隙間から射し込む朝日から目を逸らすようにベッドに潜り込んだ。そしてぴったり30秒後、バッと勢いよく飛び起きたせいでベッドから転げ落ちたのは言うまでもない。

そうだわたしエースの家にいるんだ。

今だ覚醒しきっていない頭でボサボサな髪の毛を整えながらこの事実を再確認した。そしてうわあと自分の格好にげんなりした。ズボン履いてない。エースから借りた一回り大きめなスウェットがうまくおしり下まで隠してくれているが足丸出しの状態だ。なんて格好だ。そして異質にも程がある尻尾と耳も再確認。はぁと重い溜め息がでた。

「夢のようだけど…夢じゃなかった」

ぽつりと呟いた言葉はより一層現実を叩きつけてきたように思えた。訳あってエースの家にしばらくの間のお泊まり。わたしの母親なんてこれを機にお父さんの出張先の海外に行くらしく「エースくんによろしくね」なんて言いやがった。母親公認彼氏は時に残酷だ。全くわたしがエースとしばらく一つ屋根のしたで暮らすだなんて…

……ボンッ!

考えただけで心臓が持たないらしい。何かが破裂した。こんなんでやっていけるのだろうか…。そんな弱気な気持ちをかき消すように頭を振ってみたあと部屋をぐるりと見回してみると部屋の真ん中に置かれた机の上に開きっぱなしの教科書やノートが少し散らばってるぐらいであとは非の打ち所なく相当片付けられている。あれ?ここ…来たことある。そう思えばはたと気づいた。

ここ、エースの部屋だ。目を少し開いて部屋の中をぐるりと見てみれば、どうだろう何度か遊びに来たことのある内装のエース部屋だった。てことはわたしエースのベッドで寝てたんだ。先程までわたしが寝ていたベッドを見るとじわじわと気恥ずかしさが襲ってきた。そうだわたし昨日寝る部屋が確保できてないからここで寝ろって言われて指さされたのはリビングのソファでカチンときたわたしはエースがお風呂に入ってる間にこっそりエースのお部屋に忍び込んで盛大に驚かしてやろうぷぷぷとよからぬ事を考えてふかふかのベッドに潜り込んだ後そこで…意識が…。考えなくても分かる結末。寝落ちしたのだ。あいたあ。己は初めて修学旅行に来た小学生かと心のなかでツッこんでみた。きっと昨日エースは別のとこで寝たのだろう申し訳ない。

……。ぼふっ。

改めてベッドに体を埋めてみる。ああやっぱり寝やすいと思った。エースの匂い。太陽の匂い。わたしはこの匂いが大好きだ。とっても安心する。そんなことを考えながらしばらく一人でにへらにへらと笑っていたが…そういえばエースは?再度辺りを見回して見れば、綺麗に片付けられた部屋が目に入り、壁にかかっている時計は10時20分を指していた。あー…やばいとっくに学校始まってんじゃん。学生にとってみればこんな重要なことをどこか他人事のように思ってしまったのはきっとこんななりじゃ学校に行けるわけないって頭では分かってるからだろう。でも。しゅんと垂れ下がった猫耳が表していた。この寂しい気持ちは、割りきれない。

…あーあ考えない考えない。てことはエースは学校か。再度ぼふんとベッドに体を埋めているとちょうど下の階からガタッという物音が聞こえてきた。あれ?エース今日学校休んだのかな?それかルフィ?見た目に反して悪餓鬼なのかあやつは。さっきまでの寂しさはどこへやら、浮き足たった気持ちを胸に足取り軽やかにトタトタと扉の方に向かい音のする、一階に足を進めた。ぴーんと立った耳とふよふよと世話しない尻尾を揺らして。音がするのはキッチンの方だ。近づくほどに物音が強くなり人の気配がした。わたしの期待も段々と膨らむ。

しかしそんな期待も思いもしなかった展開へと向かった。

キッチンへと踏みいると見たこともない金髪で短髪な若者がカレーを食べていたからだ。

誰?

あっけにとられたわたしはその場に固まった。金髪の若者は二口目に差し掛かろうとカレーが乗ったスプーンを今まさに口に運ぼうとする一歩手前の状態でこちらに気づいたらしい。腕が宙で固まった。若者のくりっとした目が大きく見開かれてわたしを凝視した。

お互い呆然。まぬけ面。
そして冒頭へ。

彼が何を言っているのか最初は理解できなかった。わたしの目は彼が食べているカレーに釘付けだったからだ。それは、わたしが朝に食べようと目をつけていたカレーではないか。返答のないわたしに再度若者は冷静を装い、問うた。「えー…と。君は誰かな?」と。彼のスプーンから人参が、落ちた。と同時にわたしの意識が戻った。

「け…警察う−!変態が!カレ−強盗が−!!」

力一杯叫んだ。すると目の前の若者は「え!?ちょ!な、何言って!?お、おれは変態じゃない!」と焦ったのかあたふたと怪しい者ではないですよジェスチャーをしだした。否定したのは変態だけか。わたしは一目散にキッチンの向かいのトイレに駆け込んで鍵を閉めた。誰あれなんでこんなとこに。エースは?ルフィは?混乱するわたしに追い討ちをかけるように男は扉を叩きながら「ちょっと君誰!?どっちかって言ったら君だよね変態の毛があるの!ズボン履きなよ!」 と言ってきた。失敬な!敵に情けをかけられるとは!

「あなたはもう完全に包囲されている!大人しく出ていきなさい」

「いや包囲されてるのも君だよね!」

ごもっともな意見に口を瞑るしかなかった。目に映るトイレにちょっとした絶望感が生まれる。逃げ場がない。その間も「つーか君誰だよ!」とカチャカチャとトイレのドアノブを捻る音がする。怖い…!どうしよう携帯も持ってないエースに連絡できない!ちくしょうこうなりゃ自棄だ!

「あ、あんたなんかエ、エースが追い払ってくれるんだから!」

「エース?」

「そう!ちょ、超筋肉マッチョの空手黒帯で片手で人一人捻り潰すのも「朝飯前デス」って言いのけちゃうわたしの彼氏がもう来るんだから!逃げるなら今の内だよ!」

「なにその人智を越えたデスデビル」

そうは言ったものの恐れをなしたのか扉を叩いていた音も止み扉の向こうが静かになった。でも人の気配はする。心臓がばくばく言う中向こうの出方を探ってみる。

「えーと…君の言うマッチョなエースは、もしかしておれの知ってるマッチョじゃないエースのことかな?」

静かに落ち着いた声が聞こえてきた。なんだか分からない日本語だが要するにこの人はエースの知り合い?らしいことを言ってきた。ちょっと警戒心が解けた。

「あなたは…エースの知り合いかなんかですか?」

しかしいまいち信用出来ず扉越しから聞いてみる。

「知り合いも何も、兄弟、なんだけど…」

まじでか


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